6月1日、元AKB48で女優の渡辺麻友が芸能界より引退を発表した。
所属事務所である「プロダクション尾木」の発表によると、「健康上の理由で芸能活動を続けていくことが難しい」との申し入れを受け、「身体の事を最優先に考え、本人の意思を尊重」とし、2020年5月31日に契約を終了したと説明した。
また、この当日夜には渡辺より最後のツイッターが投稿され、そこには「これまで関わって下さった皆様、応援してくださった皆様、誠にありがとうございました!」と感謝メッセージを寄せ、未明にアカウントを閉鎖した。
電撃引退の第一報から一日。
突然の発表と渡辺に関する各種報道にまだ現実を受け止めきれずにいるが、この機会に彼女について振り返りたいと思い執筆する事を決めた。
渡辺は2006年、AKB48の3期生として合格し、翌2007年にチームBのメンバーとしてデビュー。高めのツインテールと「み~んなの目線を、いただきまゆゆ~。まゆゆこと渡辺麻友です」のキャッチフレーズがAKB48の妹キャラとして活躍していた。
2016年の「神宮外苑花火大会」にて。渡辺は雨の中、センターでパフォーマンスを届けた ※編集部撮影 画像 2/4 2016年の「神宮外苑花火大会」にて。 ※編集部撮影 画像 3/4
筆者がAKB48を知ったのは中学生の頃。当時、AKB48は“国民的アイドルグループ”と呼ばれ始めた頃で、クラスの中では「推しメンは誰?」、「誰が一番可愛い?」という話題で昼休みが終わった事もしばしばあった。
筆者の中ではこの頃放送されていたドラマ『マジすか学園』に出演していた渡辺の印象が強く残っている。本作はAKB48のメンバーが出演する学園ヤンキードラマで、「馬路須加女学園」(まじすかじょがくえん・通称マジ女)を舞台に、転校生の前田敦子(本人役)が次々と現れる刺客を己の拳で倒しテッペン(頂点)を目指していくというもの。中でも渡辺が演じた「ネズミ」は、ピンクのパーカーを深く被り、ガムを噛みながら「ケンケンパ」のリズムで登場するシーンは衝撃的だった。
2011年放送の『マジすか学園2』では松井珠理奈が演じる「センター」と共に、「マジ女」のテッペンを目指す姿が描かれ、知略を生かして手を汚さずに暗躍する姿は視聴者をゾクゾクさせたはずだ。このドラマの名シーンといえば、ネズミが敵勢力の「矢場久根女子商業高校」(やばくねじょししょうぎょうこうこう・通称ヤバ女)のヤンキーたちにハメられた際に、センターと共闘した場面だろう。自らは手を下さずに謀略を尽くしていたネズミを、利用されていると知りながらも「お前が好きだ」と言い続けたセンターが手を取り合って戦う姿は手に汗を握った。(その後二人はタイマン勝負で本心をぶつけ合い、結果ネズミが改心する姿は涙ものだ)。
ドラマでネズミはマジ女のテッペンを取った。
それから3年後、渡辺はAKB48のセンターに選ばれた。
前田敦子の卒業による急激な世代交代の波は、「次世代」の名目の下に「次のセンター」探しを促した。神7のメンバーが、時には注目の若手がその座に立ったが、民意を反映する場として毎年開催されていた「選抜総選挙」は常に注目を浴びていた。彼女が総選挙で1位に選ばれた2014年。その頃の渡辺に「次世代」という言葉がふさわしくなかったかもしれない。だがスピーチで語った「自分の信じた道を行き、ファンの皆さんを信じ、やってきて本当によかった」の言葉に、ドラマとは違い、ひたむきに真っ直ぐに、高いプロ意識で「王道アイドル」を貫いた生き様を、雨の降る味の素スタジアムで強く感じた。
正直、渡辺の芸能界引退は惜しい。AKB48卒業後もドラマや番組MCで活躍する姿を見ていただけに、まだまだこれからなのに、という思いもある。しかし、「健康上の理由」で女優活動を断念せざるを得ない状況であるならば、今はゆっくりと静養してもらいたい。これまで女優として、声優として、何よりもアイドルとして我々に笑顔を届けてくれた事を筆者は忘れない。渡辺麻友という一人の女性の幸せを願っている。