杉咲花主演最新作『市子』が2023年12月8日(金)より全国公開。
痛ましいほどの過酷な家庭環境で育ちながらも「生き抜くこと」を諦めなかった川辺市子を演じるのは杉咲花。
抗えない境遇に翻弄された彼女の壮絶な半生を、凄まじい熱量で体現、芝居を超えて役を生き抜く姿を観る者の心に鮮烈に焼き付ける。
杉咲花主演映画『市子』より©2023 TIFF 画像 2/4
市子が3年間一緒に暮らしていた恋人の長谷川を演じるのは、若葉竜也。
さらには、森永悠希、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆり、倉悠貴、中田青渚、石川瑠華、大浦千佳が名を連ね、市子の知られざる人物像や過去を第三者の目線からも描き出していく。
自分の『存在』と向き合い続けたひとりの女性の生き様が、あなたの心を打ちのめす。
第28回釜山国際映画祭ジソク部門にも正式出品、国内外からも注目を集め、2023年見逃してはならない唯一無二の衝撃作が誕生した。
現在開催中の第36回東京国際映画祭にて、映画『市子』の公式上映が行われ、メガホンをとった戸田彬弘監督が観客からの質問に答えるQ&Aが行われた。
映画監督のみならず、脚本家、演出家としてもマルチに活躍する戸田彬弘監督は、2014年に『ねこにみかん』で劇場デビュー。
代表作として、映画『名前』(18)、『13月の女の子』(20)、『僕たちは変わらない朝を迎える』(21)、『散歩時間~その日を待ちながら~』(22)などが有り、国内外の映画祭で評価を得てきた。
近年では、佐久間宣行が企画、根本宗子が脚本を担当したsmash.配信ドラマ「彼の全てが知りたかった。」(22)を監督しており、今後の活躍にも目が離せない。
今回上映された映画『市子』は、戸田監督が主宰を務め、全作品の作・演出を担当している劇団チーズtheaterの旗揚げ公演である舞台「川辺市子のために」が原作だ。
サンモールスタジオ選定賞2015では最優秀脚本賞を受賞し、観客からの熱い支持を受け二度も再演をされている人気の舞台だ。
先日、第28回釜山国際映画祭にて行われたワールドプレミア上映では、杉咲花、若葉竜也らと共にレッドカーペットやワールドプレミア上映に参加した戸田監督。
チケットは即完売、上映後のQ&Aでは、作品への熱量が感じられる質疑応答が繰り返され、監督も真摯に観客と向き合い終始盛り上がりを見せていた。
海外からも注目を集め始めている本作が、遂に東京国際映画祭にてジャパンプレミアを迎えた本日。
この1年の日本映画を対象に、特に海外に紹介されるべき日本映画という観点から選考された作品を上映するNippon Cinema Now部門に招待され、すでにマスコミから「世界に届けたい名作」「全てが〈別格〉」など絶賛の声が続々と上がっている本作の上映後、戸田監督が登壇すると会場からは大きな拍手が沸き起こった。
まず、「遅い時間にも関わらずジャパンプレミアにお越しくださいましてありがとうございます。」と挨拶。
満席の劇場へ向けて感謝の想いを語った。
Q&Aセッションで手を挙げた観客の中には、原作である舞台を鑑賞した人の姿も。
「映像の方が表現できる幅が広がっていて印象的でした。」と話し、映画ならではの『市子』の魅力を楽しんだようだ。
まず、本作を映画化するに至ったきっかけを訊かれた監督は、「2015年に初演をやって、脚本賞をいただいて再演をした際に映像化のお話があったのですが、舞台を映像に変えるというアイディアが自分の中で無かったのでお断りしてしまったんです。その後、2018年に続編と共に再演するという話になった時に、これなら映画化できるのではという考えが浮かんできて、そのタイミングでまた映画化のお話をいただき、(映画の脚本を)書き始めました。」と明かした。
そもそもオリジナルとなる本作を書き始めたことについては「SNSが流行り始めた時代に、一緒に作品を作ったスタッフさんや、大学の後輩が、若くして亡くなってしまうということがあって、だけどFacebook上では存在がある、誕生日とかの通知が届くんですね。そしてそのページに行くと、誕生日おめでとうと言う言葉が並んでいる。もういないのに、知らない方からすると生きていて、存在しなくなった人が存在しているということに奇妙な感じがし、そこから存在しているのに存在しないものとして、日本の中で市子の境遇のような人たちがいることも知っていたので、そこにつながりこの話を書こうと思いました。」とコメント。
舞台から映画化に際しての工夫や、難しかった点を聞かれると「演劇のときは、同じように市子という役を演じる俳優さんはいらっしゃったのですが、ただ存在しているのにしていないということをテーマにしていたので、そこに市子はいるけど、つかめない、見えないという風に、象徴的なものとして作っていました。
映画にする場合は、市子という役を俳優が演じている姿を撮影していくとそこに実存しているように映ってしまうので、リアリティのあるものを作ろうとした時にそこが難しいのではないかと思いました。どうすれば市子をカメラで捉えながら、市子の不在、彼女を掴めない感覚を作っていけるのかなと、かなり苦労しながらシナリオを書いていきました。なので、章立てをして過去に市子に関わった人々の視点で彼女を映し出し、市子の主観を出していかないという方法論で映画化を進めることになりました。」と当時を振り返った。
さらに本作の市子というキャラクターとキャスティングについても質問が及ぶと、これに対し戸田監督は「リアリティのある作品にしなくてはいけないと思っていたので、まず年表を作りました。(主人公の設定である)1987年東大阪生まれの子供は、バブル崩壊、地下鉄サリン事件、阪神淡路大震災があって、3.11や9.11を経験した世代だと思うのですが、その年表をまず作り、その中に市子の年表を作って彼女の人生に現実味を与えていきました。市子は多面的に様々な視点から描かれていくキャラクターなので、一面的な表現ではなく幅のあるお芝居ができる人に託したいと思っていたところ、杉咲さんの過去作を観ていて、杉咲さんの演技に市子を演じて頂く可能性をとても感じました。」と語り、市子という存在に杉咲を投影した背景も明かしてくれた。
また、監督が作品に込めた願いについて訊かれた監督は、「正しさというのは一体何なのか、は生きていく上すごく考えていることです。世の中にある正しさやモラルというものは、簡単には処理できないものだと思っています。それぞれ、本作をご覧になったみなさんが市子という女性をどういう風に捉え、どういう風に考えるのか。自分の人生をフィードバックしていくきっかけになればと思い作りました。」と語った。
最後は手を振ってフォトセッションに臨んだ戸田監督。
原作の舞台初演から8年、ようやく日本国内で観客と映画『市子』を共有できた喜びを噛み締めているようにも見えた。
『市子』は、12月8日よりテアトル新宿、TOHOシネマズシャンテほかにて全国公開。
「今年1番の傑作」「女優杉咲花の代表作」の呼び声も高い映画『市子』に引き続き注目していただきたい。