昨年12月の仙台公演を皮切りに大阪、福岡、札幌の4都市で8ステージを開催し、好評を博してきた
「TEAM NACS Solo Project 5D2 -FIVE DIMENSIONS II- 生誕50 周年記念!!大泉洋リサイタル」。
2月2日、そのファイナルを飾る日本武道館公演が行われた。
この日の舞台はアリーナエリアの中央に設置された八角形のセンターステージ。
全方位から楽しめるステージセットの周りを、完売となったチケットの入手が叶った13,000名の
オーディエンス取り囲んでいる。
開演の定刻18時を迎えると場内アナウンスが流れはじめた…のだが、その声は何と大泉本人。
「ほかのお客様の御迷惑となる行為、例えばオナラは、マナーモードか匂いの出ない状態で」
「アーティストへの野次、悪口は、テンションが下がりますのでなるだけワーキャーお願いします」
「オフィシャルグッズを販売しております。ご来場の記念に是非……必ずお買い求め下さい」。
捻りの効いた技ありのアナウンスに会場は早くも笑いと拍手に包まれる。
ほどなく「Party Ya!!」(CUE ALL STARS)のSEがけたたましく流れると客席は早くも総立ち状態に。
四方に向けて設置されたLEDスクリーンが大泉のヒストリー映像から『オイズーミ』コールを煽る
映像に切り替わると、ステージ中央に左肩に甲冑、背中に赤いマントを着けた大泉が登場。
「おっ始めようぜトーキョー!!」という雄叫びから始まった1曲目は沢田研二の「TOKIO」、
そして続けざまに「本日のスープ」へ。気付けば衣装はカジュアルなシャツ姿に早替りしている。
「会いたかったぜ子猫ちゃんたちー!!」「ようこそいらっしゃいましたー!!」。
高らかな声で観客に語りかけながら、歌詞のひと言ひと言を噛みしめるように歌う大泉の歌唱に合わせて、
観客が左右に手を振る。開始2曲で場内には早くも一体感が生まれていた。
ここで最初のMCタイムに。「はじまりましたよ。恐ろしいね」
「(センターステージ)どこを見ても人がいるんですよね。僕ずっと回ってるんです。
若干、目が回ってるんですよ」。
仙台、大阪、福岡、札幌公演の観客のエピソードを披露。
映画館で行われているライブ・ビューイングの観客への挨拶や武道館の敷地内に展示されていた、
本人曰く「絶妙に小さい」自身の黄金像や、武道館入り口に掲示された同公演の横断幕のデザインを
絶妙にいじり倒していく。
「ちょっと歌ったら長くしゃべりますから」、「(次の曲は)座ってていいです!」、
「(その次の曲で)立つんだぞ、いいな!?」と笑いを誘うと、
ライトアップで頭上に描かれた満天の星のもとで「星空のコマンタレブー」へ。
そしてオフィスキュー所属の4人組ボーイズユニット・NORD(ノール)が出演した映像と
共に観客の手拍子を受けながら「ビーチドリーマー」を軽快に、
そして同曲が挿入歌となった2003年の「ドラバラ鈴井の巣 山田家の人々」の映像をバックに
「君には」をじっくりと歌い上げる。
2回目のMCタイムでは、改めて先程歌った3曲を解説。
NORDの島太星からの激励メールに
「頑張ってください、応援してます。大泉洋リサイ『ク』ル」と書かれていたことを暴露。
自身の母親が同公演を「独演会」と呼び、父は
「(TEAM NACSが)あと4人来んだべ?」と誤解していたという話題から
「今日は俺一人だからね」と念押し。
場内から「福山(雅治)さんは?」とサプライズを期待する声が飛ぶと
「来るわきゃねえだろ!?」「バカヤロー、何で俺より人気のある人を出すんだよ!?」と一蹴。
しかし実は「来なくていいの?」と気にかけていたという福山の様子や、
NHK大河ドラマ『龍馬伝』撮影時の長崎空港におけるエピソードを福山のものまねで再現する。
「まだまだ盛り上がれますか武道館!?」と改めて観客を煽ると、
白いマイクスタンドを振り回し見事なマイクターンをキメて「スマッシュヒットLOVEバシーン !」へ。
曲の終盤には突如キャディが登場してボールをセット。
大泉がゴルフのドライバーを振ってノリノリのアリーナの四方八方に向けて次々と
ボールを打ち込んでいく画がとも痛快だ。
続いてはタオル回しからの「疾れ!」。
ドライブ感に溢れる2曲にオーディエンスの熱気が最高潮に達する。
ここまでの曲といいMCといい、確かに大泉はずっとステージ上を回り続けている。
全方位の観客を楽しませようとする彼のサービス精神が伝わってくる。
ここで大泉が一旦退場し、映像タイムに。ファンお待ちかねの「水曜どうでしょう」
藤村・嬉野ディレクターとの対話映像に場内が沸く。
リサイタルを「のど自慢」とイジり倒す藤村ディレクターに苦笑しながらも、
大泉は今日のための映像を作ってほしいと発注。
「(会場の)大泉初心者を失禁するほど笑わせてほしい」(大泉)
「何でもやるんですね?」(藤村ディレクター)という丁々発止に客席は爆笑に次ぐ爆笑に。
その映像に期待を膨らませつつ、リサイタルは「昭和名曲ヒットパレード」へ。
白いスーツ姿で登場した大泉が、「自動車ショー歌」(小林旭)、
「また逢う日まで」(尾崎紀世彦)、 「長い夜」(松山千春)を大らかなボーカルで
歌い上げていく。特に北海道を代表する歌手である松山の「長い夜」は、
ハンドマイクの持ち方まで本人のディテールを彷彿とさせる表現に余念がない。
さて、いよいよ藤村・嬉野ディレクターによる受注映像が解禁。テーマは「大泉ファッションショー」。
「水曜どうでしょう」のスタイリスト小松江里子が用意した筆舌に尽くしがたい
4つのコーディネートを着た大泉がウォーキングから何故か太鼓を叩くという衝撃の展開に。
「水曜どうでしょう」ファンならご存知『ひぐまの洋』も挟んだ映像に大爆笑と拍手がひっきりなしに続く。
笑い疲れた頃、照明が一転。曲は「手漕ぎボートは海をこえて」。
スクリーンでは「水曜どうでしょう」の過去映像が流れ、観客からあたたかな拍手が起こった。
3回目のMCタイムでは「大泉ファッションショー」の解説から、自身の無茶振りを認めつつも、
藤村・嬉野ディレクターに映像を発注するのは「ヤミ金融からお金を借りるようなもの」
「丸投げは最後に自分に返ってくる」と自戒。そこから「水曜どうでしょう」ファンにはお馴染みである
大泉の従兄弟の『みっちゃん』が札幌公演に訪れた抱腹絶倒のエピソードが語られた。
ここからライブは終盤戦に突入。
数々の大泉楽曲を手掛けてきたター・ナー・カー(田中一志)とシモシモ(下川佳代)による
書き下ろし楽曲に大泉が作詞をした新曲「コラーゲン。」、日本語吹き替えを担当したミュージカル映画
『シング・フォー・ミー、ライル』から装いも新たにバンドアレンジされた「Top Of The World」を披露。
「ふわり」では天井から無数に放たれたハート型のペーパークラフトがひらひらと
舞い降る心あたたかくなる幻想的な演出も印象的だった。
そしてステージにグランドピアノが登場。おもむろにピアノに向かう大泉。
どよめく観客。
何と「ハナ〜僕とじいちゃんと」をピアノ弾き語りで届けようというサプライズ演出だ。
しかし……曲の前に用意したイントロが弾けない。弾いては躓きを繰り返す。
「武道館には魔物がおる!」。固唾を呑む客席には、まさに子どもの父兄参観日かピアノの発表会を
見守る家族のような不思議な一体感が生まれる。「あんなに練習したのに」「リハでは上手くいったのに」。
しかしまだつまずく。「(NHK)SONGSのメイキングが入っているのにー!!
ここは使わないでくださーい!!」とうなだれる大泉に爆笑と拍手が送られる。
連続7回のミスを経てようやくイントロをクリアすると「ハナ〜僕とじいちゃんと」へ。
ひまわり畑の映像をバックに、大泉と観客の〈シャララ シャララ いつか会える〉、
〈ワララ ワララ かならず来る〉の大合唱が響き渡った。
4回目のMCタイムに入ると大泉は悔しさのあまり再びイントロにトライ。
ピアノの練習を振り返りつつ何とか無事に弾き終えると
「まさかこんなことになるとは。まあ俺らしいよね」と苦笑した。そして「ふわり」を書き下ろした
GLAYのTAKUROへの感謝、少年時代に父と訪れたという故郷に立つ塔の思い出、
さらに作曲を手掛けた玉置浩二から寄せられたという作詞のアドバイスを語って、
「あの空に立つ塔のように」へ。昨年大晦日の第74回NHK紅白歌合戦でも披露された
話題のナンバーをラストに相応しい熱唱で歌い上げるとリサイタル本編が幕を閉じた。
盛大な手拍子に応えて再び大泉が登場。この日、全編に渡って素晴らしい演奏を奏でた、
田中義人(ギター)、山田章典(ベース)、nang-chang(マニピュレーター)、
田中栄二(ドラム)、松本圭司(キーボード)、NAOTO(バイオリン/バンドマスター)、
コーラスの小此木麻里、まりゑ、会原実希らバンドメンバーを紹介する。
武道館のために用意したというスペシャルなアンコールは、まさかのマイケル・ジャクソンの名曲
「マン・イン・ザ・ミラー」。マイケルのあの細やかなブレスやソウルフルな節回しや
シャウトまで完コピ(?)の熱演にオーディエンスが笑いと拍手で応える。
ちなみにこの曲のオケは、再現度を高めるため、バンドメンバーが使用楽器や音色まで
こだわり抜いたそうだ。アンコールの最後は「バカね…冬」から「バカね」を続けて披露。
『愛してるよー!!』コールに「俺も愛してるよー!!」と応えて最後は〈ららら〉の大合唱から
〈晴れのそーーーーらーーー〉とロングトーンの絶唱でオーディエンスを魅了。
「ありがとうございました!! ありがとうね、武道館!!」。
大泉が客席からの拍手と声援に応える。花道を歩きながら何度も投げキッスを繰り返し、
身体を抱きしめるジェスチャーでオーディエンスに感謝を伝えると全編の幕が閉じた。
全編3時間強。本編16曲とアンコール3曲、そして十二分過ぎるトークと映像。
2011年以来およそ13年ぶりとなったソロ公演は、50歳を迎えた稀代の人間力を持った
エンターテイナーのこれまでの歩み、北海道への郷土愛、仲間との友情、
さらにはマルチな魅力と近年の音楽的な成果までもが凝縮された、
まさに『集大成』と呼ぶに相応しいステージだった。
来る3月20日には初のベストアルバム『YO OIZUMI ALL TIME BEST』もリリースされる。
次は13年後と言わず、是非とも近いうちにまたステージに立ってほしい。
きっと数えきれないほどの笑いに包まれ拍手と声援を送った13,000名のオーディエンスも同じ思いのはずだ、
と勝手に断言してしまえるくらい『大満足』の一夜だった。
文:内田正樹
撮影:西槇太一