BUCK-TICKが5月25日・26日に千葉・幕張メッセ 国際展示場9・10・11ホールで、“ロクス・ソルスの獣たち”公演を開催。終演後には、12月29日(日)東京・国立代々木競技場第一体育館公演をファイナルとするライブツアー“THE DAY IN QUESTION 2019”の開催を発表した。
彼らが幕張メッセで単独公演を行なうのは今回が初のこと。これまでも“THE DAY IN QUESTION”や、12年に一度のメモリアルな“CLIMAX TOGETHER”など、作品を帯同しない大規模な単独公演を開催し、その度に伝説を残してきたが、2日間で約2万4千人を動員したこの公演は、それらに匹敵する新たな金字塔を打ち建てたと言える。
この公演について、1910年代の怪書「ロクス・ソルス」のイメージを彷彿させるものの、タイトルだけではその内容を想像し難く、謎が謎を呼んでいたのだが、このステージで観客が目にしたものは、“今まで誰も見たことがない”BUCK-TICKの姿だった。左右センターの3方向に伸びた花道。花道の先に設置されたセンターステージ。ホログラム演出。客席の間を練り歩く入場方法。円形のアコースティックセット。新曲の初演奏とレア曲満載のセットリスト。デビュー30周年を経て、新たなフェーズへと踏み出した彼らが、初日のMCで「30年経って、今日はいろんなことにチャレンジしてみました」と、はにかんだのだ。そんな彼らの新しい試みは、観客を大いに熱狂させた。趣向を凝らしたステージ演出と、美麗かつダイナミックなライティング、そして見る者を魅了するパフォーマンスで至高の世界へ誘った幕張メッセ公演の2日目、26日のステージを紐解こう。
ステージ中央に設置された丸いスクリーンに、ロクス・ソルスの森に迷い込んだような映像とSEが流れた後、この公演のテーマソングと言って過言ではない「獣たちの夜」で一気に会場のテンションをぶち上げる。黒い獣の皮をまとったような衣装の櫻井敦司(vo)が、歌いながら花道をのし歩くと大きな歓声が上がった。続いて今井寿(G)が「キューン」と猫の鳴き声のような音を鳴らすと「GUSTAVE」へ。間奏では今井、星野英彦(G)、樋口豊(B)が連なって花道を練り歩く。2曲続けて獣たちからの挨拶を受けた観客は、ここから悪夢のようなめくるめく世界へと引きずり込まれるのである。ヤガミ・トール(D)がタイトなビートを聴かせる「PHANTOM VOLTAIRE」、樋口がアップライトベースでルンバのリズムを奏でる「Lullaby-Ⅲ」のデカダンな2曲、ゆらりと立ち上る炎の映像をバックにした「謝肉祭−カーニバル−」では、仮面を手にした櫻井の妖艶な歌と星野の熱の帯びたギターリフが、「キラメキの中で…」では歌メロに今井が奏でる「白鳥の湖」のメロディが絡み合い、ますます倒錯の世界へと落ちていくのだった。「相変わらずの「アレ」のカタマリがのさばる反吐の底の吹き溜まり」では、まるで水中にいるかのようなスクリーンの中の櫻井と、ステージ上の今井がツインヴォーカルをとる。
そのシーンは幻想的であまりにも美しかった。櫻井が再びステージに戻ると、インダストリアルロックの鉄板曲「ICONOCLASM」、ノイジーなデジロック「タナトス」と続く。圧巻の迫力でフロアを支配した「BABEL」の後、丸いスクリーンの両脇に伸びる階段の最上階、右側に櫻井が、左側に今井が腰掛け「Moon さよならを教えて」を歌い奏でる。その世界観を引き継いだ「Tight Rope」。近年は2007年にリアレンジされたバージョンで演奏されることが多かったが、今回は久々に1996年の原曲バージョンで演奏された。そして新曲「RONDO」では、フロアの左右中央にメンバーのホログラムが登場。メロディと歌詞のリフレインが夢と現実をくるくると彷徨う輪舞曲の、幻想的な世界を演出した。ドスのきいた人魚姫の恋の歌「THE SEASIDE STORY」、開放感あるフューチャーポップチューン「BRAN-NEW LOVER」と高揚感を高めたところで、ショーの終わりを知らせるリズムをヤガミが高らかに打ち鳴らし、本編ラストの「DIABOLO」と共に夢の狂宴は華々しく幕を閉じた。
メンバーがステージを降り、沸き起こったアンコールの声が少しざわめいた。その理由は円形のセンターステージに設置されたアコースティックセット。そのステージに向かい、両脇から差し出される手にタッチをしながらメンバーが客席の間を歩いてきたのだからフロアは興奮しきり。ステージに上ったメンバーは、櫻井をセンターにぐるりと囲むように座った。「また違ったBUCK-TICKを感じていただければと思います。今井さんのアレンジで形を変えて数曲聴いてください」との櫻井の言葉をスタートに、アコースティックアレンジによる「スズメバチ」「BOY septem peccata mortalia」「形而上 流星」の3曲を披露。こういう形でアコースティックコーナーを設けたのはBUCK-TICK史上初のこと。そのサプライズな展開のみならず、特筆すべきはアレンジの妙。過去のステージを盛り上げてきたアップチューンの「スズメバチ」や「BOY septem peccata mortalia」は密室感が加わってよりセクシーに、シンプルな音で構成された「形而上 流星」は、よりクリアに胸に響いたのだ。
今回の公演では本編の「相変わらずの〜」や「謝肉祭」など、10年以上演奏されて来なかった楽曲を蘇ったことも印象深い。Wアンコールの1曲目に披露されたのも16年ぶりに演奏された「愛ノ歌」。情感込めて歌った「さくら」では、中盤からフロアにさくら色の花吹雪が舞い上がった。そして大ラスは「HEAVEN」。ステージ上の2つの階段がスクリーンに映し出された天界へと続く階段と繋がったのを見た時、“ロクス・ソルスの獣たち”は天界の住人だったのだと解釈した。その音は慈愛に満ちていて、とても温かだ。「どうかみなさん、幸せに、幸せに、幸せに」(櫻井)。人々の幸せをそう願いながら、多幸感に満ちあふれたステージを締めくくった。
終演後、SEの「THEME OF B-T」が響く中、1日目のステージのダイジェスト映像が流れ、“THE DAY IN QUESTION 2019”の開催が発表された。12月3日(火)群馬・高崎芸術劇場 大劇場を皮切りに29日(日)東京・国立代々木競技場第一体育館まで全5公演を実施する。また、アンコールのMCで櫻井は「30年を迎えてみなさんに祝ってもらって、そして31年目……まあ、長いですね。でもみなさんが楽しんでくれるので、また次いいものを作ろうという気にさせてもらえます」と語っていた。こうして未来を提示し続けてくれる限り、BUCK-TICKという夢からはまだまだ覚めることはないだろう。
テキスト:大窪由香