2020.02.29 公開
Shinya(DIR EN GREY) ソロプロジェクト 「SERAPH」特別コンサートを開催

Shinya(DIR EN GREY) 写真:Lestat C&M Project)  画像 1/4

ShinyaDIR EN GREY)のソロプロジェクトSERAPHがShinyaの誕生日前日2020年2月23日、そして当日24日の2日間、<SERAPH Concert 2020 Licht of Genesis>をSHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて開催した。

最早毎年恒例となっているShinyaのバースデーイベントだが、去年はショーケースという形でSERAPHのステージ初披露となった。SERAPHとして初の正式なコンサートともあり、ファンにとっては一層期待度が高まっていたであろう。

Shinyaの誕生日当日、2月24日のSHIBUYA PLEASURE PLEASURE、開演前の会場内にはバロック音楽をBGMに落ち着いた雰囲気が漂う。期待感こそ感じるものの、ライヴハウスのようなひりつく緊張感はなく、開演をリラックスして待つ来場者達の姿がそこにはあった。

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開演と同時にスクリーンにはゆっくり舞い上がる羽と雪原の大地、払暁の光芒が差す幻想的な銀世界に立つ2つの人影が何処ともなく歩いている映像が映し出された。Shinyaともう1人のSERAPHメンバー、Moa(Piano/Vocal)だ。ステージでは天使のように白いドレスを纏ったヴァイオリン・ヴィオラ・チェロを演奏するストリングス4人が静かに旋律を奏で始める。静寂と冷たさを音で感じられるかのような始まりから力強く壮大さが増していく序曲「Destino Overture」、これから始まる世界への期待は一層深まると同時に張りつめるような緊張感が広がっていく。

SERAPHのイメージカラーとも言える白一色のステージ、その中央に歩を進め登場したShinyaとMoa、背景スクリーンに映し出されたSERAPHのロゴタイトルをバックに2人が揃った瞬間、会場から割れんばかりの拍手が湧き上がる。開演を告げる鐘の音が響き、かくして荘厳で華麗な響宴の舞台の幕は開かれたのであった。

それぞれがドラムとピアノに移動し、流れを止めることなく始まった1曲目は「Destino」。生きること、”運命”について厳かに語りかけるMoaの歌声とピアノ。フレーズこそテクニカルなものの、決して激しくなりすぎない絶妙な技を魅せるShinyaのドラム。そしてそれらをさらに昇華させるようなハーモニーを奏でるストリングスの音が一体となり、大いなる物語に引き込まれていく感覚を全身に浴びる。

加えて、聴覚だけではなく視覚的な映像美にも圧倒された。大聖堂を背景に黄金の光の粒子が映し出されたと思うと、曲のラストには再び雪原が映し出され、ステージ上のShinyaとMoaの背後から青白くなった光が立ち上り、まるで2人に天使の両翼が生えているかのように見えた。

映像、ステージ、そして音楽全てに一寸の隙も見せないSERAPHの世界に1曲目からやられてしまった。
1曲目が終わると大きな拍手が沸き起こった。クラシックのコンサートではよく見られるが、日本のロックシーンではほぼ見られない光景である。日本を代表するロックバンドのメンバーであるShinyaのソロプロジェクトコンサートでこのような光景が起こるのはSERAPHのステージが最早一流のクラシックスタイルということの証明にもなっているのであろう。


続く曲は、イントロから激しくリズムを刻むドラムが印象的な「Abyss」。海底の深淵に忘れられた都市の記憶、というテーマ通り、ほの暗い海底に揺蕩う失われた神話の世界に対する畏怖の念を表現するかのような崇高なダークさと、激しいビート、ヴァイオリンソロの後に訪れる静寂さといった、実際に海の中にいるかのような緩急ある展開が我々をより深い世界に引き込んでいく。

雰囲気が変わり続く「Sauveur」、煌びやかな宮殿をバックに刻まれる小気味良い三拍子がまるで舞踏会に招待されたかのような錯覚を起こす。そしてただ耽美なだけではないのがSERAPHの特徴。今回の公演ではスクリーンに全曲歌詞が投影されているため、既にリリースされている曲以外では初めてSERAPHの歌詞の世界にも触れることができた。“救世主”を意味するタイトル通り、「暗闇から夜明けへと抜け出そう、あなたの人生を救わせて」という愛に溢れる歌詞のメッセージに、耽美さだけではなく、天使としての慈しみをも含まれた楽曲だということに気づく。その1曲1曲の深さにはただただ感嘆するばかりだ。

紅く染まった海、少し霧がかったような映像と共に続くのは「Uisce」。穏やかなに波打つ水面のように静かに歌い上げるMoa。その揺らぎから一転、激しく波打つ海面、そして嵐を思わせる展開に息を飲む。その刹那、Moaはフルートを持ち激しく緊張感のある旋律を奏でる。作詞作曲編曲、ピアノに歌唱だけでは飽き足らず、さらにはフルートも吹けてしまうというマルチな才能に驚きつつ、その酔いしれるような音の波に引き込まれていく。そして訪れる静寂、さっきまでの激しさが嘘のように広がる蒼天に加え、ラストのRemember the love(愛を思い出して)、“Beautiful world, to the blue world”(美しい世界を、青い世界を)と締めくくられる。注目すべきは歌詞通りの紅い照明、青い照明だけでなく、紫色にステージが照らされていた事、痛みと愛、それら両方を内包する世界こそ我らが生きるこの世界だというメッセージだったのではないだろうか。あまりにも完璧すぎる世界観に、ついこういった考察をしてしまうのもSERAPHの楽しみ方の1つであると言えよう。


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そして前半部のピークとなる「Génesi」、唯一リリースされている楽曲とあってファンにとっては最も馴染み深い曲であろう。聴き馴染みがあろうがやはり生の迫力は圧倒的だ。今回はストリングス4人にドラムとピアノ&ヴォーカルという編成だが、この曲は特にそれぞれの音がクリアに聴こえ、フレーズの聴かせどころ、所謂“美味しい部分”を余すことなく堪能できる。特にMoaの美しいストリングスのような伸びやかな高音が響きわたり、現在のSERAPHの代表曲としての格を見せつけられた。

ストリングスがステージアウトし、2体の天使の像をバックに残ったのはShinyaとMoaだけとなると、一体何が始まろうかと固唾を飲む。緊張の糸を切るようにMoaのピアノソロが旋律を奏で始める。徐々に激しくなり、時には凪のような静かさ、感情的に表情を変える音色に陶酔した刹那、Shinyaのドラムがピアノの呼びかけに呼応するかのように差し込んでくる。旋律を奏でるピアノ、ビートを刻むドラム、2つの打楽器が混ざり合い楽曲として完成された1つの音として会場を満たしていく。元々Shinyaのドラムは単体でもメロディアスなフレーズを奏でると定評があるが、ピアノと渾然一体となることでより一層美しく昇華された旋律が圧倒的な迫力で迫ってくる。その迫力の前に思考を奪われ呆気に取られている内にこの唯一無二のピアノとドラムのデュオが終わり、心地よい余韻と拍手が鳴り響いた。

MCでは、普段は話すことのないShinyaがマイクを取る。イベント二日目ということもあり第一声は「昨日ぶりです」と始まり、この会場がSERAPHのホームグラウンドになってるということ、そして好きだったマウントレーニアのネーミングライツが無くなって楽屋にもマウントレーニア飲料が置かれなくなってしまい寂しいとユーモアたっぷりに、そして時にシュールに語った。
そして前半5曲は去年のショーケースで披露した曲だが、残りの曲は初披露の曲であるとも同時に伝えられた。

MCが終わり、ストリングスが再びステージに登場し始まった初披露曲の1曲目は「Majesté」、中世ヨーロッパを思わせる優雅で高貴な雰囲気の楽曲だ。晴れ渡る庭園の映像をバックにMoaのピアノソロが響く。タイトルはフランス語で“威風”を意味するが、まさしく威光ある重厚な楽曲だ。

続く「Reisn」は“What does it mean to be human?”(人間とは何であろうか?)の歌詞から始まり、優しく、しかし力強くゆったりとしたピアノフレーズを中心に展開される。Moaの包み込むような深みのある歌声で人にその命の”尊厳”を問いかけてくる。

そして“雨”を意味する「Lluvias」。世間のイメージする雨をテーマにした楽曲はどこか悲しげな印象を受けるものが多い。しかし「Lluvias」はむしろ暖かく、慈愛に満ちた印象を受ける。悲しみに暮れる人に対し“When you cry, we will cry with you”とMoaが歌う。「あなたが泣いている時、私たちも寄り添い共に泣こう」とでも訳すべきか、語りかけるような、それでいて力強い歌声はまさに天使の救いのようであった。雨が降った後は虹がかかる。七色の照明に照らされたステージがその答えであろう。

その後、ハッとさせられるキメのフレーズと同時に突如会場の空気感が変わり、スクリーンが蒼い雪山の映像に差し代わる。しかし冒頭の雪原とは異なり、山中、人の立ち入ることのない領域といったような印象を受ける映像である。ロシア語で“罪”を意味する「Lovshka」では人の罪に対し厳しくも公正な姿勢で臨む天使目線での歌詞が展開された。緊張感のあるサウンドは、神の使いに対する畏怖の念を現しているのであろうか。背筋が自然と伸びる思いと、引き込まれるかのような神秘性に目が離せなくなる。


拍手が鳴り止まぬ中Shinyaが再びマイクを握る。「本日最後のMCです。」と始まったMCではまずは日常で使えるものを選んだというグッズ紹介。コットンケースをドラムのように叩いたり、ボールペンをスティックのようにしてドラムを叩いたりと、またもやシュールなボケを炸裂させるShinya。先ほどまでの完璧な世界観とのギャップに会場全体が笑いに包まれ和やかな空気に包まれる。そして「DIRとは方向性が違うのですがどうでしょうか?」とSERAPHについて問いかけると会場は拍手喝采で返答。Shinyaもホッとしたような表情を浮かべたところでMoaの合図でストリングスがお馴染みのバースデーソングを演奏しケーキが登場。そう、あまりにも完成度の高いステージに気を取られていたが忘れてはならない、本日はShinyaの誕生日当日なのだ。「かつてこんなに豪華なハッピーバースデーを聴いたことがありますか」と、少し恥ずかしそうな表情を浮かべステージ中央に置かれたケーキの元に寄るShinya。ケーキを食べドラムに戻った第一声は「喉がカラカラになりました」とまたもや茶目っ気を見せた。そして最後の楽曲について語る。「“Kreis”という曲はSERAPHの中でも3番目くらいにできた曲なんですが、サビのメロディは12年前から温めていました。そのメロディにMoaさんが素晴らしい歌詞を乗せてくれました。温めた甲斐がありました。」と思い入れの強さを伝えた。「スクリーンには歌詞が表示されるので次回のライヴまでには完璧に歌えるようにして下さい。本日はありがとうございました。」と無茶振りを交えつつも、Shinyaらしい締めの挨拶を行なった。

そして本編ラストを飾る「Kreis」、印象的なピアノフレーズから始まり、鮮やかな花々の映像がステージを彩る。美しいメロディに加え、生命賛歌とも取れる歌詞に思わず息を飲む。「Kreis」はドイツ語で“円”を意味する。罪を侵しエデンの楽園を追放された人間が住む地球、生命の循環、全てを含めたこの世界に対する愛に溢れた楽曲に心が満たされていく。そして楽曲終盤にスクリーンにエンドロールが流れる。ステージ上のメンバーの名前が続き、最後には“and...you”の文字が。会場の来場者一人一人がSERAPHには不可欠だ、というメッセージだろうか。惜しみない拍手が送られる中、ストリングスのメンバー、Moa、そしてShinyaがそれぞれ一礼しステージを去り、華麗な響宴は幕を閉じた。

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さて、ここまでがSERAPHのコンサートレポートとなるが、当日来場したVIPチケット購入者には第二部としてさらなるSpecial Talk Eventに参加することができた。SNSには一切内容を書いてはならないという箝口令が引かれたまさにVIPなトークであるが、特別に一部内容を紹介しよう。

まず、スペシャルイベントのMCとして登場したのは過去にもShinyaのバースデーイベントで司会を務めたお馴染みの団長(NoGoD)、そして団長の呼び込みでSERAPHの純白の衣装とは対照的な真っ黒な衣装でShinyaが登場。団長との軽快なトークに加えて、来場者からのShinyaに対する質問に答えていく。内容の詳細は伝えられないが、かなり攻め込んだ内容の質問もあり、ファンにとってはたまらないトークが続く。そして急遽決定したというShinya持ち込み企画「自分の誕生日に謎解きがしたい」のコーナーでは前回のDIR EN GREY国内ツアーで発売されたグッズの1つ、謎解きファイルの謎製作、監修をした"よだかのレコード"代表のへるお氏が登場。
プライベートではドラムより謎解きをしている時間が長いというShinyaの為に、へるお氏が書き下ろしたという謎解き問題数問を出題。Shinyaと競う形で会場全体で謎解きを行ない大いに盛り上がった。その後もファン垂涎の内容のトークが続き、イベントは終了した。

最高級の音楽と映像を駆使したステージ、そしてエンターテインメント性抜群のトークも交えた今回の<SERAPH Concert 2020 Licht of Genesis>、来場者に心から楽しんでほしいというShinyaの想いが詰まった2日間であった。この2日間の時間を胸に刻み込みながら、また次回SERAPHに会える時を心より願ってやまない。

(写真:Lestat C&M Project)


<SERAPH Concert 2020 Licht of Genesis>

セットリスト:

Opening. Destino Overture
M1. Destino
M2. Abyss
M3. Sauveur
M4. Uisce
M5. Génesi
M6. Piano & Drums duo
M7. Majesté
M8. Reisn
M9. Lluvias
M10. Lovshka
M11. Kreis
Ending. Génesi (Instrumental)

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