新型コロナウイルスの感染拡大は、すべての人を翻弄してきた。その中でもミュージシャンは、どうすることもできない歯がゆい思いをしてきたはずだ。それは、Psycho le Cémuも同じ。さらに彼らは、結成20周年を記念した『TWENTY STORY』と題したプロジェクトが止まってしまったままである。ライヴができなくても、彼らは自分たちの音楽を届ける術を模索してきた。オンラインライヴの経験を経て、2月5、6日に新宿BLAZEで、この状況になって初となる有観客ライヴ『NEW BEGINNING』を成功におさめた。そして3月12日、追加公演としてKT ZEPP YOKOHAMAでライヴを行った。
場内アナウンスが諸々の注意事項とともに、会話を自粛するようにうながす。開演を待つ会場は静まり返っていた。開演時刻を15分ほど過ぎて、暗転。静寂の中、青い照明とファンの手に輝くルミカライトだけが光を放つ。流れ出す時計の針の音が、これまでの時間の流れを彷彿とさせる。コロナ禍においても時間の流れだけは容赦ない。だから、立ち止まるのではなく、前へ進み続けることがこの状況に抗うひとつの方法なのだろう。
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ゆっくりと、YURAサマとseekが登場。続いて登場するのは、LidaとAYA。厳かとでも言いたいような空気が会場を包み込んでいる。純白の羽を広げたDAISHIが最後にその姿を現すと、鐘の音がライヴの始まりを告げた。ピアノのイントロから始まったのは、「あきらめないDAYS~神伝Ver.~」。イントロのギターフレーズを豊かにハモりながら奏でられ、ドラマチックにオープニングを彩る。DAISHIの歌声が丁寧に、けれども力強く、会場に広がっていった。
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「あきらめないで 僕らはそばにいるから」と歌うこの曲こそが、今の彼らとファンをつないでいる。その歌からは、DAISHIの心からの願いがひしひしと伝わってくるように感じられた。「始めようか~!」というDAISHIの高らかな声を合図に、会場を満たす空気が動き出す。笑顔を振りまくYURAサマを筆頭に、5人はキラキラと光り輝いていた。ファンを目の前にしてこそ、アーティストは本来持っている輝きをすべて放てるのかもしれない。そう思わせるほど眩しい光景だった。
新宿BLAZEで、久しぶりにファンの前に現れたときは緊張感も感じられたが、この日は本領発揮といわんばかりに、そのまま「LOVE IS DEAD」へとなだれ込む。観客席は動き回れず、声が出せなくても、ステージ同様にそれをものともせず頭を振り乱す。「Mind Core」では、さらに曲に合わせてノリを体で楽しむ。
最初のMCでDAISHIは、暗い闇の中にいましたとこれまでを振り返り、「今夜一緒に旅立とうぜ」と声をあげた。光り輝くステージから、心も体も弾むようなビートが届けられる。「輝きの中へ…」のタイトルどおりの世界。白く光を放つ照明がメンバーを照らす。神殿の柱を模したように布を配したシンプルな背景に、この日のライヴは美しく、動きのある照明が映えた。特にドット状のライトを一直線に並べて吊り下げ、上下左右に動かしながらさまざまな色、形を描き出す演出は、視線を引きつけ、曲ごとに多彩な景色を作り出していた。
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神秘的な妖しげな世界を描き出した「一億のパルチザン」からは、曲ごとに次々と異なる光景を展開していく。きらめくようなサウンドに、伸びやかなメロディは空高く遠くへ響くように広がり、DAISHIはパワーで押すのではなく、けれども想いを強く丁寧に込めて届けた。楽器陣の4人が楽器を置き、5人が並んだところで始まったのは、「DANCE Ⅱ HEAVEN」。ファンも一緒になって楽しく踊るダンスとは異なる、どこまでもクールに魅せるダンスを披露。曲の世界観をさらに奥行きのあるものにした。
続く「AREA」では、DAISHI とYURAサマによるツインヴォーカルで聴かせる。耳なじみのよいメロディはどこか懐かしさも感じるよう。YURAサマは言葉巧みに観客を盛り上げ、声を出せない現状さえも、「こんなプレイがあってもいいんじゃない」と笑いに変え、心の声を求めては、「YURAサマ、カッコいい」と自画自賛。ダンスはもちろん華のある存在の安定感は、これまでと異なるライヴにおいて安心感さえ感じさせた。
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「ここからブチ上げていくか! かかってこい!」というseekの雄叫びから「Liberty, babies」がスタート。seekの地を切り裂くような太く鋭い歌声がシャッフルのリズムと共に押し寄せる。続く「[feel on the dark]」はヘドバンの嵐。客席もその場に立ったままではありながら、頭は激しく動く。DAISHIの声色はまるで別人のように攻撃性を増し、聴く者に襲い掛かってくる。かと思えば、「LAST EMOTION」では軽快にラップを聴かせ、次々と幅広い魅力を惜しげもなく見せつけた。
パワーあふれる後半戦からついにラスト「愛の唄」。サビの伸びやかなメロディに乗せて、Psycho le Cémuからのメッセージがファンに届けられる。客席へ両手を差し伸べるAYA。じっと観客を見つめるseek。タイトルどおり、ファンへの愛が感じられるひとときだった。「みんな、愛してるよ」というDAISHIの言葉で曲が終わると、本編はここまで。YURAサマのロケットバイビーで終了となったが、まだ演奏されたのは12曲だけ。短めになったのは、感染拡大予防のため、換気タイムが必要だから。このようにライヴの構成も含め、ガイドラインに則った形でライヴは実施されていた。
アンコールの声が出せないもどかしさはあるものの、願いを込めた手拍子が続き、まずは楽器陣が登場。Lidaがアコギを爪弾き、始まったのは「この星に願いを…」。星が瞬くような照明が美しい。DAISHIの感情の詰まった歌声に温もりを感じさせるアコースティックサウンド。ひとつの世界を5人の音と歌でくっきりと浮かび上がらせた。彼らの一般的なイメージからは遠いかもしれないシンプルなアコースティックというスタイルもまた、彼らのたくさんの武器のひとつに過ぎず、それはまた彼らのミュージシャンとしてのスキルの高さを物語ってもいる。
そしてここからはメンバー全員によるMC。まずはseekからとっておきのお知らせが。「次の予定が決まりました! 5月3日結成記念日に渋谷公会堂(LINE CUBE SHIBUYA)でやります!」 5月3日は、昨年姫路文化センター大ホールで20周年の集大成を見せるはずだった日。失われた日は取り戻せないとしても、新たな選択で、もっと素敵な未来を描けるはず。メンバーの表情にも喜びと決意がにじむ。
「一歩ずつ前進できています。ついてきてもらえたら」という、日頃のマラソンが今日のライヴにも生きた(笑)というYURAサマの言葉に続き、「音楽を通じて少しずつ前に進むしかない。道標や灯りになれるように頑張る」というLidaの真剣な言葉が続く。この日の全身真っ白な衣装を、「やっと見てもらえた」と喜びの表情を見せたのはAYA。21年目だからこそ、色のない真っ白な衣装に統一してみたかったのだという。この衣装は、オンラインライヴをしたZEPP TOKYOでも着ていたが、改めて会場でその姿を見て、5人並んだ壮観な光景や特別な存在感から生まれる世界があった。
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「早くみんな集まりたい。それが5月3日になればいい」とはやる思い口にしたのはDAISHI。「愛してる」という言葉を繰り返し口にしていた彼は、観客を前にしてその思いがあふれてしまっていたのかもしれない。カッコつけるわけでも、叫び声をあげるでもない、その一言は実感に満ちていた。MCの最後はseek。観客を座らせて、去年20周年記念のツアーが止まってからを振り返った。前に進むことを選び挑戦し続けて来たが故の難しさを語り、それでも「この一年、前に進んできた。僕らのことを信じてついてきてほしい」と力強く、どこまでも誠実に語り掛けるseekには、現在の状況を乗り越え、前へと進む決意でいっぱいだ。
そしてここからガラッと空気を変え、5日後に控えたAYAのお誕生日を祝うことに。登場したケーキにはなぜか蝋燭がない。とそこへ、頭上に吊り下げられた照明がケーキの上の蝋燭のように灯った。ハッピーバースデーの歌が終わると、吹き消す仕草をするAYA。ステージ上でメンバーのお誕生日を祝うのは決して珍しいことではないけれど、そんなこともこの一年なかったと思うと感慨深いものがある。
観客が着席したまま、あと2曲アコースティックを続ける。まずは、「STAR TRAIN」。サウンドが異なるのは当然のことながら、歌声もまた変化し、サウンドに寄り添い、そして気持ちがそのまま届けられる。声の持つ力を改めて感じさせた。観客はゆったりと体を揺らしながら聴き入り、もちろん2階席から表情は見えないのだけれど、幸せな空気に包まれていた。ストリングスの音色から「VISITOR」が始まると、一転スパニッシュなサウンドがドラマチックに盛り上げる。Lidaはエレキ同様アコギも巧みに弾きこなし、華麗なソロを披露した。
「さあ、皆さん暴れますよ」というDAISHIの一言から、再び暴れる時間がやってきた。冷たいほどのサウンドでスリリングに聴かせた「Revenger~暗闇の復讐者~」から、殺気に満ちた「漆黒のゲルニカ」へ。ハードであっても、ノリやすく体が動きやすいという点でキャッチーさが失われていないのは、Psycho le Cémuの魅力なのかもしれない。「Murderer・Death・Kill」とくれば、勢いに任せてひたすらノるだけ。どこまでも気持ちよく熱くなれる。
そこへさらなる大切なお知らせとして、5月3日LINE CUBE SHIBUYA公演は、『理想郷旅行Z~二十年後の僕達へ・・・~』となることが告げられた。20周年を締めくくり、彼らの地元姫路で行われるはずだったこの公演。安心してライヴができるときに、予定どおり姫路で、このライヴをみんなで見られることを待っていたファンの方もいるかもしれない。メンバー5人ももちろんそれを望んでいたはずだ。けれども、彼らは前へ進むことを決心した。それは、音楽をしたい、バンドがしたいというミュージシャンとしてもっとも正直な気持ちであり、その気持ちに従うことこそが、ファンを大切に思っている証だ。
最後に届けられた「REMEMBRANCE」を聴きながら、5人の切実なまでの思い、心からの願いが感じられるような気がした。彼らは夢を諦めない。これからも前に進み続けていく。そんな姿を追いかけていけば、もっと素晴らしい光景を見せてくれる気がする。この日のライヴを見て、そんな期待が強くなった。
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ロケットジャンプで締めくくり、ステージがカラフルな虹色に彩られると、会場は幸福感で満たされた。もちろん状況はまだ厳しく、先も見えない。けれども、このまま彼らについていけばいい、そんな安心感が得られたのではないだろうか。5月3日LINE CUBE SHIBUYAではどんなライヴを見せてくれるのか、今からそれが楽しみだ。(text by村山幸)Psycho le Cému(C)photo by Sayaka Aoki 画像 14/15
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2021年3月12日(金)
NEW BEGINNING @KT ZEPP YOKOHAMA公演 SETLIST
1.あきらめないDAYS(神伝ver.)
2.LOVE IS DEAD
3.Mind Core
4.輝きの中へ・・・
5.一億のパルチザン
6.奇跡を知る僕らは五線譜に咲く希望を唄う
7.DANCE Ⅱ HEAVEN
8.AREA
9.Liberty, babies
10.[feel on the dark]
11.LAST EMOTION
12.愛の唄
EN1. この星に願いを・・・(Acoustic ver.)
EN2. STAR TRAIN(Acoustic ver.)
EN3. VISTOR
EN4. Revenger -暗闇の復讐者-
EN5. 漆黒のゲルニカ
EN6. Murderer・Death・Kill
EN7. REMEMBRANCE
Psycho le Cémuからのコメント
https://youtu.be/D5q-mow6AXY
2021年5月3日(月祝)
理想郷旅行Z 〜二十年後の僕たちへ・・・〜
LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
OP17:15 / ST18:00
全席指定¥9800 ~(4/18より一般発売)
公演に関する詳細はこちら
https://psycholecemu.com/news/9015