昨年11月30日に発表された3rdアルバムをタイトルに冠し、12月18日に地元・埼玉からスタートし、札幌、仙台、福岡、大阪、名古屋…と、年を跨いで敢行された新山詩織の全国ツアー。ツアーファイナルとなった東京・TSUTAYA O-EAST公演は、“新山詩織というファインダー”を通して形を成した楽曲の魅力を、存分に味わえた二時間半となった。
カタカタカタ……映写機独特のフィルムの回る音とともに、サイドスクリーンに投影され言葉と新山詩織の声…
“私には何が見えるだろう”。
そして新山詩織のモノローグに導かれるように、今回のツアーで訪れた土地、会場の風景が次々と映し出される。フィルム回転音とシンクロするように、心地よいインストが会場を包み込むと、暗いステージにバンドメンバーと新山詩織の姿が現れる。一瞬の後、新山詩織自身の声でライブのスタートが告げられた。
“ファインダーの向こう”
1曲目はアルバムのオープニングにもなった「あたしはあたしのままで」。会場中が手を頭上に挙げてリズムを打つこの曲は、昨年6月にリリースされた8枚目のシングルだ。パフォーマンスからはどこか大人っぽさが感じられた。
一年前に観た新山詩織からさらに魅力的になった彼女を魅せてくれるのではないか、という期待が膨らんでいく。
続く2曲目も最新アルバムから。「部屋でのはなし。」は、さわやかな疾走感にちょっぴりのセンチメンタルをのせる。はにかむような笑顔がまぶしい。
“あらためまして、新山詩織全国ツアー『ファインダーの向こう』東京ファイナルへようこそ!”
歌声と同様、小柄な体からは想像できない力強い声で会場をあおると、ジャジーで妖艶さも漂わせる「気まぐれ」、歌詞に描かれる“夕闇”“夜明け前”に象徴される、仄明かりのようなやさしいノスタルジーで会場を包み込んだ「もう、行かなくちゃ。」を続けて披露。
すっかり彼女のライブに引き込まれたオーディエンスに向かい、“東京!盛り上がってますか?!”と茶目っ気たっぷりに投げかけると、改めて自分自身の言葉を会場へと伝える。
20歳を迎えてからのこの一年、自身がどうあったか。
“この一年はなくてはならない一年だった”
「挑戦という言葉」をテーマに過ごしたという2016年は、一番の挑戦であった初めてのドラマ出演(月9ドラマ「ラヴソング」に宍戸春乃役で出演)を果たし、劇中歌も歌った。このドラマと楽曲をきっかけに、新たなファンを含めたくさんの出会いが彼女にもたらされたと語る。
“心を込めて歌います”という言葉に続けてギターの音が繊細に響く。その出会いをつくってくれた曲、福山雅治作詞作曲「恋の中」だ。新山自身の言葉通り、詞のひとつひとつ、音のひとつひとつを大切に綴り、今まさに恋をしている幸福感と切なさがじんわりと染み渡っていくようなその曲を歌い終えると、彼女は“ありがとう”という言葉を残した。
ステージが暗転し次の瞬間オーディエンスの前には、ギターを置きハンドマイクを持った新山詩織。“最近の口癖なんですけど、この間20歳になったと思ったらもう来月21(歳)です(笑)。この一年で、大人の仲間入りもしたかなということで、少し背伸びをして大人な雰囲気でお届けしたいと思います”というMCとラグジュアリーなサウンドにのせて届けられた「午後3時」の甘い空間から一転、♪もうどうしようもない わかってるよ でも簡単に泣きたくはないの…という感情をぶつけるようなアカペラで始まった「絶対」ではシンプルなアレンジが彼女のヴォーカルをより際立たせ、感情を吐露する激しさが伝わってくる。
再びギターを手にし、つま弾かれた曲は「糸」。映画「古都」のエンディング曲として新山詩織がカバーした中島みゆきの名曲だ。これまで数多くのアーティストによってカバーされてきたナンバーだが、新山が歌う「糸」の魅力は“無垢”であろう。触れた人を浄化するような癒しの1曲であった。続いて最新アルバム収録曲「四丁目の交差点」を披露するとライブも中盤。
“ありがとうを今伝えたい”
新山詩織のモノローグとともに、再びサイドのスクリーンに光が灯る。「今 ここにいる」をBGMにスクリーンで上映されるのはツアー中に新山詩織が撮りためてきた写真。まさに“新山詩織のファインダーの向こう”だ。それはとてもやさしい世界だった。
あたたかな拍手が会場を包むと、ステージがパッと照明がつき、装いも新たな新山が登場。前半の柔らかな感触の白のシャツブラウスと赤いワイドパンツとは打って変わって、黒のライダーズに赤いタータンチェックのミディアム丈のワンピース。ROCK GIRLな衣装らしく、後半はバンドメンバー紹介からスタートし、アッパーなナンバーやPOPなナンバーが続き、熱気は高まるばかり!
最新アルバム収録のキュートPOPな「Sweet Road」、同じく『冬スポ WINTER SPORTS FESTA 16』公式テーマソングとなった「Snow Smile」に』続いては、会場が一斉にクラップせずにはいられなくなったノリノリなナンバー「Everybody say yeah」、タオルを力いっぱい振り回す「Dear friend」、そして2ndシングルとしてリリースされた「Don’t Cry」まで一気に聴かせ、魅せ、盛り上げる。「Don’t Cry」では会場とのシンガロングを存分に楽しみながらも、会場を完全にひとつにしていった。
そのエネルギーを受け止めて演奏された「LIFE」から、本編最後の曲「隣の行方」へ。アルバム『ファインダーの向こう』の最後を締めた2曲がそのままライブ本編の最後を飾る。本ツアーが、『ファインダーの向こう』というアルバムの世界観をライブにしたものだということが明白に伝わる納得の選曲と言えるだろう。
新山とバンドメンバーがステージから姿を消すや、始まったのはアンコールの“しおりコール”。止まない“しおりコール”を受けて、新山が登場するとさらに大きな歓声と拍手で迎え入れられる。
ステージに戻ってまず新山が伝えたのは、ファンへの感謝の気持ち。伝えながら感極まって一瞬言葉に詰まると、
“言葉で言うよりも歌で返したほうがいいと思うので”
と、アルバム『ファインダーの向こう』から「名前のない手紙」を贈った。
♪Dear you 親愛なるあなたへ
この曲は、応援してくれているファンに向けた新山からの感謝の手紙なのかもしれない。
ツアー中に感じたファンの方たちへの感謝を改めて語りながら、このツアーをずっと支えてくれたバンドメンバーともツアーでの思い出を振り返ると、アンコール2曲目、3曲目として、彼女のルーツミュージックでもある「ありったけの愛」、「現在地」を続けて披露。
アルバム『ファインダーの向こう』通常盤にはそれぞれオリジナルバンドのTHEATRE BROOK、THE GROOVERSと共演したスタジオレコーディングが収録されているのでチェックしたい。会場には新山の同世代だけでなく、4~50代の姿も見えたが、彼女のルーツにあるロック・スピリッツに共鳴する部分があるからだろう。
そしてアンコール最後の曲は、新山詩織のメジャーデビューシングル「ゆれるユレル」。デビュー当時は昇華しきれなかった想いを歌う、どこか危うげな部分が魅力だったこの曲は、どんな迷いをも凌駕する力を手に入れ、より魅力を増していた。エンディングでステージを駆け回り、ギターをかき鳴らす新山詩織。その瞳には、バンドメンバーが、そして会場を埋め尽くすファンの姿が映っている。
自分の葛藤を歌にしていた少女は大人になり、たくさんの挑戦と出逢いを経て、とても鮮やかでやさしい世界を写すファインダーを手に入れていたようだ。新山詩織の“ファインダーの向こう”を、これからもまだまだ見せて欲しいと思う。
新山詩織 全国ツアー2016-2017「ファインダーの向こう」
<Set List>
M-1 あたしはあたしのままで
M-2 部屋でのはなし。
MC
M-3 気まぐれ
M-4 もう、行かなくちゃ。
MC
M-5 恋の中
M-6 午後3時
M-7 絶対
M-8 糸
M-9 四丁目の交差点
MC
M-10 Sweet Road
M-11 Snow Smile
M-12 Everybody say yeah
M-13 Dear friend
M-14 Don’t Cry
M-15 LIFE
M-16 隣の行方
EN-1 名前のない手紙
EN-2 ありったけの愛
EN-3 現在地
EN-4 ゆれるユレル