新型コロナウイルスの感染拡大により、さまざまなスケジュールの変更を余儀なくされたアーティストと同様、一昨年に結成20周年を迎えたPsycho le Cémuもまた、苦渋の決断を迫られることが続いていた。彼らの故郷である姫路で予定されていた20周年記念ライヴは延期となり、翌年にLINE CUBE SHIBUYAへと場所を移して実施する決断をしたものの、それも見送りとなった。
それでも諦めなかった彼らがたどり着いたのが、8月14日姫路市文化センター大ホールだ。日程が変わり、感染が拡大する状況ではあったが、彼らは感染防止対策をしたうえで有観客、そして配信でのライヴを行うことを決めた。
「Psycho le Cému 理想郷旅行Z ~二十年後の僕たちへ…~」ライブの様子Photo by Sayaka Aoki 画像 2/16 「Psycho le Cému 理想郷旅行Z ~二十年後の僕たちへ…~」ライブの様子Photo by Sayaka Aoki 画像 3/16 「Psycho le Cému 理想郷旅行Z ~二十年後の僕たちへ…~」ライブの様子Photo by Sayaka Aoki 画像 4/16 「Psycho le Cému 理想郷旅行Z ~二十年後の僕たちへ…~」ライブの様子Photo by Sayaka Aoki 画像 5/16
この日のライヴは『理想郷旅行Z 〜二十年後の僕たちへ・・・〜』と題され、第14帝國の楠元柊生元帥による脚本と演出のお芝居と演奏を織り交ぜた、Psycho le Cémuならではのステージだった。開演時間を迎えると、静かにお芝居が始まり、一気に観客は引き込まれていく。ステージに登場したメンバーはさすがに緊張した様子もうかがわせたが、大きなステージのうえで堂々としたパフォーマンスを見せていた。
そしてライヴの一曲目は、全員で踊るダンスナンバー「BLADE DANCE」。真剣な様子でお芝居の展開を見つめていた観客も、両腕につけたサイリウムを光らせながら踊り出す。オリエンタルなムードのイントロに続いたのは、「激愛メリーゴーランド」。「来たで、来たで。サイコが姫路に帰って来たで」と、YURAサマがとびきりの笑顔を振りまきながら、観客をノせていく。イキイキとした表情でプレイするLida、気合いがみなぎるseekなど、5人の表情からは既にライヴの成功が約束されているかのように感じられた。
「親愛なるキミたちへ贈ります」というDAISHIの言葉から始まったのは、「愛の唄」。伸びやかなメロディに、素直な歌詞を乗せて歌い上げるDAISHI。ストレートに心に飛び込んでくるような歌が、彼らの魅力のひとつであることは間違いない。そんな風に愛を届けていたDAISHIが一転、「抱かれる覚悟で来たか、頭振れ!」と観客を挑発する。「インドラの矢」が始まると、怪しげな空気が漂い、観客へと忍び寄っていく。
そのまま「ノスフェラトゥ」へ、ロックバンドならではのサウンドでなだれ込んだかと思うと、次の「one day」では観客も一緒にみんなでジャンプ。ラップを交え、軽快なノリで体を動かす。すっかり体が温まり、会場に熱気が満ちたところで、おなじみのギターフレーズから、「クロノス」が始まった。ドラマチックに歌い上げるDAISHIの表情はどこか切なく、感情に溢れた歌が胸を打った。
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続くステージでは、さらにドラマチックで感動的なお芝居が待っていた。理想郷の扉を開くために、なぜかお笑いのネタを競っているメンバー5人。そこへ流れ出したのは、子どもの声によるナレーション。南の洞窟へ行くと、未来の自分に会えるのだという。さらにLidaについて話すこの声は、子ども時代のDAISHIのもののようだ。
そして現在のDAISHIの前に、子ども時代のDAISHIが登場。20年後の自分、そして20年前の自分に会う二人の姿は、現実ではありえないが、誰もが一度は空想する夢でもある。「理想郷へ行けた?」「Lidaとずっと一緒にいる?」と無邪気に尋ねる少年時代のDAISHIに、「あいつのおらん人生は考えられへん」と答えるDAISHI。20年以上に及ぶPsycho le Cémuでの歳月、幼馴染として過ごしてきたそれまでの歳月。そんな現実を想像して重ね合わせると、台詞ひとつひとつがさらに胸に響いた。
AYA、seek、YURAサマという仲間と冒険をすると言う未来を聞いて、大喜びする子ども時代のDAISHI。DAISHIの人生と、Psycho le Cémuの歴史、それらが見事に重ね合わされたストーリーは、単なるファンタジーの物語を超えて、この20周年ライヴに相応しいものだった。
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次の「想い出歩記」では、子ども時代のDAISHIがかわいらしく各メンバーのもとを歩き、プレイを真似てみせ、お互いに顔を見合わせて笑顔を交わす。どれだけ望んでも子ども時代に戻ることは誰もできない。誰もが共感できる、美しい切なさが、音楽とパフォーマンスで表現された素晴らしいシーンだった。
少年時代のDAISHIが現在のDAISHIに問いかける。「大人になるのって楽しい?、幸せ?」そして、DAISHIは答える。「めっちゃ幸せや。同じ場所、時代に生まれてきてくれてありがとう」それはDAISHIからほかの4人のメンバーへの、そして会場で、さらには全国から配信を通してみつめていたファンへの思いにほかならない。
ここからはDAISHIと魔王をはじめ、みんなで殺陣が繰り広げられる。このような派手なシーンのにぎにぎしさもPsycho le Cémuらしい演出だろう。DAISHIのエクスカリバーの一撃で魔王はやられ、とうとう理想郷の扉は開いた。これからも笑顔で闘い続けることを誓い、「ファイティング!」が始まる。メンバー5人はリラックスした様子で笑顔を浮かべ、華やかにお芝居を締めくくった。
AYAのMCからいよいよ終盤戦。希望の光に包まれて「あきらめないDAYS」が始まる。あきらめない強さを聴く者に与えるこの曲は、困難にあっても前へ進む彼らそのものだ。5つの笑顔は、「STAR TRAIN」でますます弾け、どこまでも明るく輝いた。
「そろそろひとつになろうか、姫路。トバしていくぞ!」というDAISHIの一声から、「妄想グラフィティー」。全力を出し切ろうと力を込めるメンバーは、時折客席を見上げるように力強い眼差しを送る。激しいシャウト、そしてヘドバンと、荒々しいステージに向け、声は出せなくても応える観客。それはきっと、それぞれの場所で配信を観ていたファンも同じだったに違いない。
本編最後は「聖~excalibur~剣」。思い切り掲げられたたくさんの手が今日のライヴの成功と、これまでのPsycho le Cémuの歩みを祝福しているかのように見えた。「お前ら愛してるぞー」というDAISHIの叫びが、観客の声なき声を受け止めていた証だ。演奏とお芝居、見応え聴き応えたっぷりのライヴがここで終了。おなじみYURAサマの「ロケットバイビー」で本編の幕を下ろした。
アンコールは、“白鷺城下町を旅立ち今~”という歌詞で始まる、この場に相応しい「夢風車」で幕を開けると、メンバー一人ひとりが思いを語るシーンがあり、涙に詰まる表情も見られた。「支えてくれた人に大きな拍手を」と感謝を告げたLida。「この5人でサイコができてよかった」と誘ってくれたDAISHIに感謝を告げたseek。YURAサマは「最高のライヴをして、やりたいことが増えました」と未来への展望を口にし、DAISHIはコロナのため客席を埋めることはできなかったけれど「今までで一番の景色でした」と断言した。そしてAYAは、「いい音楽、いいライヴをつくって、恩返しをしていきたい」と気持ちを新たにしていた。
恒例ロケットジャンプの後は、「あきらめないDAYS」が流れる中、全開の笑顔で無邪気にはしゃぐ幸せいっぱいの姿が見られた。その輝きっぷりは観ている側まで幸せになるほど。それぞれが満足そうにステージを去っていく中、最後にLidaが深々と頭を下げ、ステージを後にした。
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誰もステージにいないところに流れ出したのは、新曲「アカツキ」。“さぁ取り戻せ 僕らの世界を”という歌詞から始まるこの歌は、未来への彼らの強い意志の現れ。この日に発表されたように、10月2日、デビュー記念日にZepp Tokyoで「理想郷旅行Z~ENCORE~in Zepp Tokyo」を行った後、彼らは全国ツアーを出発する。
エンターテインメントを取り巻く状況がまだ厳しいのは否めない。この日もメンバーは口々に決断の難しさを語っていた。けれども彼らは勇気を持って前へ進む。今はライヴ会場へ足を運べないファンもいるかもしれないが、勇者である彼らの優しさを信じていてほしい。勇者は、勇気と優しさの大切さを知っているのだから。