2017.06.25 公開

Photo by 西槇太一


2017年6月20日21日。MUCCは20周年という節目の年のちょうど真ん中に武道館でのライヴを置いた。結成から20年。1年を通して選んだ過去との対面の時間の中で、この2日間の武道館ライヴは、MUCCというバンドの成長をリアルに体感できた時間だった。

【過去との対面】であった2日間のライヴタイトルには、これまでにリリースされてきた、過去のアルバムタイトルの頭文字を並べたものであり、それはその日行われるライヴを紐解く手がかりとなっていたとも言えるだろう。

6時9分から始まるという、【69(MUCC)】にこだわった時間設定で幕を開けた『MUCC 20TH-21ST ANNIVERSARY 飛翔への脈拍 ~そして伝説へ~ 第Ⅰ章97-06 哀ア痛葬是朽鵬6』と名付けられた1日目のライヴは、会場内の照明がすべてつけられた状態の中で、時計の秒針の音が会場に不気味に響きわたるという演出からスタートした。

オーディエンスがその秒針に合せて手拍子を重ねると、ステージから放たれた強い青白い照明は、一つ一つその光を落としていった。会場内のすべての光が失われたその場に4人が姿を現し、ステージに松明が灯ると、SATOちのドラムからその曲は始まった。

 

【ライブレポート】MUCCが武道館ライヴ2days開催!「20年間の闇を、痛みを、解放しよう!」  画像 2/19Photo by 西槇太一


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「朽木の塔」である。この曲は、2004年9月に発売されたムックの4thアルバム『朽木の灯』のラストに置かれている8分越えの大作だ。互いの人生をも背負う運命共同体であるバンドという人生の中で起こった出来事への贖罪を唄うこの曲は、彼らにとっては特別なものなのだ。

しかし、この贖罪を通じて未来へと歩みを進めることを選んだ彼らは、2006年の6月6日にワールドツアーのファイナルとして行った初の武道館公演『MUCC WORLD TOUR "TOUR FINAL「666」"』でこの曲を封印したのである。まさに、その時のライヴの始まりが「朽木の塔」だったのだ。

今回のライヴで真正面からとことん過去と対面するには、この封印を解かずにはいられなかったのだろう。闇の中でさらに深い闇を描き出すがごとく真摯に個々の音に向き合うSATOちとYUKKE。狂ったようにギターをかき鳴らすミヤ、床に跪き力の限りを使って叫ぶ逹瑯。そこに向き合った彼ら4人の想いの深さに息を呑んだ。

封印から11年が過ぎ、そこから積み上げられた歴史とそこからの未来にあった現在のMUCCというバンドの存在の大きさがあるからこそ、この日の1曲目に置かれた「朽木の塔」は想像を超える重さを感じさせられるものであった。そして、それと同時に、この曲がこのとき、目の前で浄化されていく瞬間を見た気がした。

 

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ステージにはMUCCの象徴である梵字が彫刻されたセットが迫り上り、ゆっくりとその頭を上げた。

「20年間の闇を、痛みを、解放しよう!」(逹瑯)

「朽木の塔」終わりで逹瑯が叫ぶと、オーディエンスは待ってましたと言わんばかりの歓声をその叫びに返した。「朽木の塔」という特別な序章からの本編は、彼らが歩んできた歴史の前半9年を鮮やかに蘇らせた。

最近のライヴでも“煽り曲”としてセットリストの中によく用いている「蘭鋳」や「茫然自失」でオーディエンスに火をつける彼ら。会場前列に設けられたスタンディング・エリアでは客席に肩車の壁が生まれ、ダイブやモッシュで埋め尽くされるなど、ライヴハウス宛らの盛り上りとなった。

そして間髪入れずに届けられた、やはりこれも初期の彼らの定番曲である「スイミン」では、黒い衣装に身を包んだ4人が狭い狭い金魚鉢から少し広い水槽に放たれた黒い蘭鋳に見えたほど、手放しで曲と唄を放っていたように感じ、5曲目に届けられた「娼婦」では、ステージ両脇のスクリーンに過去の武道館映像が映し出されていたのも、とても感慨深い時間となった。

 

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改めてこうして過去曲をライヴで聴き返してみると、MUCCというバンドは当時、救いも光もない闇深い世界で必死にもがき、鬱血した真情を吐露していたことに直面させられる。

思い返せば、私自身、過去の彼らと出逢ったとき、エンターテインメントやSHOWと言ったライヴ感とは無縁なヒリヒリとした時間をライヴとし、目を背けたくなるような人間の業ととことん向き合い、とことん暗く、差し込むわずかな光をも拒み、排除していた彼らの人間臭さに惹かれたものだ。

それこそがムック(※現表記MUCC)。そう思っていた。その頃の彼らが放つ楽曲たちはアンダーグラウンドなダークさを宿した生音中心のバンドサウンドであり、エレクトリックな質感や同期音や英語などは必要の無いものだったのだ。

故に、エレクトリックな質感や同期音や英語などは、永遠にムックとは無縁なものだと思っていた。実際、この日に届けられた2006年までのMUCCの音には、様々なチャレンジや冒険があったとは言え、“エレクトリックな質感や同期音や英語”と言った要素を取り込むまでに至っていない。

中盤あたりでは「りんご」「勿忘草」という2017年の1月にリリースされた最新アルバム『脈拍』の中からの楽曲が挟み込まれていたのだが、『脈拍』は、過去のムックの持つ表情や、ムックというバンドの基軸の最も近い音楽性を感じたアルバムだった故に、それらの楽曲たちは、1997年から2006年という時代に生み出された楽曲たちととても馴染み良く流れていった。

しかし、やはりそこには洗練された音楽性を感じる構成と磨かれた感性を感じさせられたのは、そこに彼らの成長と進化があったという証だろう。それこそが、その対比こそが、【過去との対面】を楽しむことができた今回のライヴの醍醐味なのだ。

また、「蘭鋳」や「茫然自失」や「9月3日の刻印」など当時の独特な暗さを宿したと同じく、2003年にリリースされたアルバム『是空』に収録されている逹瑯のブルースハープがロカビリー色を一層強く押出す「1979」は、逆に『脈拍』に収録されているSATOち・ミヤ作曲のハード・ロカビリー「BILLY×2 〜Entwines ROCK STARS〜」にも通ずる現在のMUCCを彷彿させる、SHOW要素の強い“今っぽさ”を感じずにはいられなかった。

 

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後半に並べられていた「前へ」「夕紅」「家路」も同じくである。「前へ」「夕紅」「家路」と言ったSATOちが作曲を担った、とことん暗い世界の中でもがいていた当時のムックの楽曲の中では珍しく前向きさと光を感じる曲たちなのだが、「家路」「前へ」が世に送り出された2001年2002年と同じ空気感を放つ「夕紅」は、2006年に世に送り出されているのである。2006年よりも、もっと初期の頃の楽曲だと思わせる懐かしさを宿す「夕紅」は、サウンド的に、さらに激しさを追求するようになったと感じたアルバム『6』に収録されている楽曲であったことに、この日、改めて驚きを感じたほどである。

しかし、そんな改めての驚きの中に、現在の新たな進化と成長の中に、変わらぬ感性が生き続けているということと、この頃から積み重ねてきた基軸は揺らいでいないのだということを教えられた気がした。

この日のアンコールの1曲目には、現事務所に所属してから2009年まで、共にライヴを作り上げてきた大切なスタッフであったコメットさん(※2009年に亡くなった当時の舞台監督)への想いを綴った「ジオラマ」を置いていた彼ら。武道館という大箱に立った経験のない未熟だった彼らに様々な提案をし、よりムックらしく4人がステージに立てる様にと向き合ってくれたコメットさんへの想いを、20周年を向かえることができた、武道館が似合うバンドになれたこの日に、どうしてもこのステージからこの曲を届けたかったに違いない。

彼らの原点を感じさせるフォークな愛しい1曲が、とても美しく響きわたった瞬間だった。そして。彼らはこの日のアンコールを最新アルバム曲「脈拍」で締めくくり、翌日に繋げたのだった。

 

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21日の『MUCC 20TH-21ST ANNIVERSARY 飛翔への脈拍 ~そして伝説へ~ 第Ⅱ章06-17 極志球業シ終T』は、タイトルが示すが如く2006年から2017年という11年を中心に組まれたセットリストによって構成されたライヴだった。

「20年間の中で出逢えた全ての人たちと、まだ見ぬ未来のあなたへ。心から、心からの感謝を。ありがとう———」

「脈拍」の始まりの前に、真っ白な衣装を纏った逹瑯はそっと言葉を置いた。拍手に包み込まれる客席。バンドにとって、これ以上に幸せな空間はないだろう。客席からの想いを音と唄で返すかのように、ミヤとYUKKEは早くも上手と下手を行き来し、オーディエンスをそのサウンドに巻込んでいった。

 

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「暴れよう」

逹瑯の一言から始まった「塗り潰すなら臙脂」は、イントロで大きな歓声を生み出すと、畳み掛けるSATOちのドラムに煽られ、客席はオーディエンスの拳で埋め尽くされた。既に、この時点で昨日の空気感とは全く別モノのライヴがそこに生まれていた。逹瑯の言葉を借りて記すならば、前日が【闇と痛みからの解放】であれば、この日は間違いなく【自我の解放】であっただろう。

最新アルバム『脈拍』の中でも、特にありのままの開放感を感じるヘヴィチューンである「KILLEЯ」では、スタンディングエリアに巨大なサークルモッシュが出現するという、ここ最近のMUCCのライヴド迫力の景色を眺めることが出来た。

独特な和を感じさせ、バンドに個性的な奥行きを描き足した「極彩」を挟み、過去のムックからは想像が付かない逹瑯とミヤの艶っぽい絡みが見せ場となる「JOKER」へと繋がれた頃には、メンバーもオーディエンスも完全に自らの全てを解放していたように思う。

「JOKER」で魅せる逹瑯とミヤの官能的な絡みと、マイクスタンドにエロティックにまとわり付きながら唄う逹瑯のエンターテインメントは、前日の“ムック”には無かった個性である。

 

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MUCCです。こんなたくさんの人の前でエッチな気分になっちゃったな(笑)。楽しんでもらってるでしょうか?昨日とは打って変わって、エンターテインメントな感じの楽しげな笑顔のMUCCになっております。かと思いきや、この長い年月をかけて、最初の10年と後の10年を分けると、まだまだ暗い部分が後の10年の先っちょの方に残っているので、そういう曲もちょいちょいありますんで、いい感じのバランスで楽しんで帰ってください」(逹瑯)

そんな逹瑯の言葉どおり、この日は、解放の中にも、「JAPANESE」「メディアの銃声」といった、メッセージの世界に深く入り込んで届けなければならない、ある意味疲労度の高い楽曲たちも流れの中には存在していたのだが、「秘密」や「ピュアブラック」というYUKKE作曲の、バンドサウンドとR&Bやスウィングなどの要素との融合ロックが、ライヴを前日とは確実に違うSHOWへと誘っていたのだった。

メインコンポーザーであるミヤの生み出すMUCCの主軸となる楽曲と歌詞世界と、そんなミヤの楽曲に乗せる、表現力と感受性の高さを感じさせられる、“さすが”な逹瑯の言葉と感情の置き方の素晴しい歌詞こそ、MUCCという歴史を支えてきた個性ではあるが、SATOちの人間性そのものが窺い知れるピュアでストレートなSATOち曲も、“オシャレ曲”と呼ばれるYUKKEが生み出す“YUKKE節”は、コアなムックファンはもちろん、“まだ見ぬ未来のあなた”の胸に必ずや響くMUCCの個性であると確信できたのも、この2日のライヴを観て感じた。

 

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また、前日のアンコールの1曲目に持ってきていた「ジオラマ」と同様に、“20周年目の武道館に響かせたかった”に違いなかったであろう楽曲「暁」が届けられたのも、実に感慨深かった。

この「暁」は、東日本大震災の影響を受け、“自分たちにも何かできないか”と考えた彼らが、震災直後に急遽製作し、2011年5月21日、22日に行われた日本武道館でのライヴにおいて、限定販売シングルとして1枚500円で販売され、収益金が寄付された音源なのである。

本編ラストに選んだ「シャングリラ」で、2日間の武道館ライヴを締めくくったMUCCは、ここでこの先まだまだ続いていく【過去との対面】を告知した。

オールタイム セルフカヴァーアルバム『殺シノ調べⅡThis is NOT Greatest Hits』のリリース(9月13日)、9月9日から始まる『MUCC 20TH ANNIVERSARY 殺シノ調べThis is NOT Greatest Tour』、MV集のリリース(10月)、豪華アーティストが名を連ねるトリビュートアルバムのリリース(11月リリース)、そして、トリビュートアルバムのリリースを記念して11月30日から行われる、トリビュートアルバム対バンツアー『えん7』と、12月27日に、「20TH ANNIVERSARY MUCC祭『えん7FAINAL』in 武道館」を、ここ、日本武道館にて行うことを発表したのだ。

 

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2日目のこの日は、20周年という歳月の中にあった様々な出逢いや経験から、MUCCは新たなサウンドへの道を切り開いていったのだという事実を感じさせられたと同時に、この先も歩みを止めることなく飛躍することを約束してくれた時間となった。

自らに与えた様々な試煉を超えながらも、20周年イヤーの大きな山として、この2日間の武道館ライヴに向けて全神経を集中させてきた彼らだったが、ここから先に控える【過去との対面】は、さらに過酷な試煉となりそうだ。

20周年という節目に課した【過去との対面】が、この先のMUCCをどのように変化させていくのか、そして、この先の未来に、MUCCのどのような進化が待っているのか、実に楽しみなところである。

2日目の武道館のアンコールに届けられた「優しい歌」で、オーディエンスが客席に咲かせた“携帯ライトの光の花”の美しさを、彼らはMUCCを続けていく限り忘れることはないだろう。

飛翔への脈拍は、後にどのような伝説を生み出してくれるのだろうか。この先もMUCCというバンドの歴史をしっかりと見つめ続けていけることを切に願う。

(Writer 武市尚子)

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