4月2日(日)、東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで開催された『宇徳敬子ハッピーバースデーライヴ2023 30th Anniversary おめでとう、ありがとう。』は4月7日の誕生日と、ソロデビュー30周年を記念したWアニバーサリー公演。その節目に『声出し解禁(マスク必着)』が重なり、コロナ禍の3年を経てここまで辿り着いた歓びをUK(宇徳敬子)ファミリーが分かち合う、感動的な一夜となった。
この日を待ちわびたファンで埋め尽くされた会場には開演前から高揚感が漂っていたが、17時30分、客電が落ち、スクリーンにこれまで宇徳がソロとしてリリースしてきたCDのジャケットが次々と映し出されると、カラフルなペンライトが一斉に点灯。バンドメンバーに続いて主役が登場した瞬間、割れんばかりの拍手と3年分の歓声が巻き起こる。
特別な時間は「幸せの予感」(94年)と「Higher~青い空ねぇ~」(98年)でスタートした。ともに祝祭の日にふさわしい、心浮き立つナンバーで、場内は総立ち。おそらく多くの来場者が心置きなくライヴを楽しめる幸せを実感したに違いない。
その興奮冷めやらぬまま、最初のMCでは早速UKバンドのメンバーが紹介された。2010年の初ワンマンライヴ以来、あまたのステージを共にしてきた入倉リョウ(ドラムス)と伊藤千明(ベース)、2014年から参加のオバタコウジ(ギター)、そして昨年から加わった安部潤(キーボード)の4人。いずれも宇徳の歌と調和したサウンドを奏でる精鋭たちで、会話の端々から信頼に基づく一体感が伝わってくる。客席からメンバーへの声が飛ぶなど、和気藹々とした空気感も3年ぶりと言えるだろう。
続いて演奏された「風のように自由~free as the wind~」(98年)と「Realize」(99年)はいずれもシングルA面曲で、『自由』や『安らぎ』をテーマにした宇徳ならではのメッセージソング。その後のアコースティックコーナーでは、93年にリリースされたソロデビュー曲「あなたの夢の中 そっと忍び込みたい」と「愛の戦士~I’m a Fighter~」(96年)を披露し、美しいハイトーンを交えたエモーショナルなボーカルを届けてくれた。
歌の合間のMCでは13年前、自身のライヴ活動がこの日の会場である渋谷プレジャープレジャーで始まったことを回想。ファンにとって、『ソロシンガー・宇徳敬子』に出会えた聖地ともいえる場所で記念公演を開催したのは、初心に戻り、これからも音楽活動に邁進したいという想いがあったからだと明かされた。ソロデビュー曲や、自身が壁に突き当たっていたときに書いたという「愛の戦士」を歌ったのは、そんな気持ちの現われだったに違いない。
そして中盤はUKライヴでお馴染みのカバーコーナーに突入。プリンスがガールズバンドのバングルスに提供した「MANIC MONDAY」(86年)を皮切りに、宇徳が参加したB.B.クィーンズ「おどるポンポコリン」と同時期に『ちびまる子ちゃん』のオープニングテーマだった「ゆめいっぱい」(90年/関ゆみ子)、さらに劇場版アニメ『機動戦士ガンダムF91』の主題歌「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」(91年/森口博子)のアニソン2曲を抜群の歌唱力で聴かせてくれた。
近年は新しいことへの挑戦として、テレビのバラエティ番組にも出演している宇徳は、今年1月に放送された『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』(TBS系)で「光と影のロマン」を屋形船のうえで歌唱。揺れる船上での安定のパフォーマンスが注目されたが、会場にはそのとき共演した山野さと子とドリーミングのちよが駆けつけており、このタイミングでUKファミリーに紹介された。国民的な人気を誇る『名探偵コナン』『ドラえもん』『アンパンマン』の3大アニメの歌姫揃い踏みに場内が沸いたことは言うまでもない。
続くゲストコーナーには、やはり共演を機に交流が生まれた中西圭三が登場した。きっかけは昨年5月に名古屋で開催されたイベント。そのときは個別のステージだったので、歌のコラボレーションは今回が初めてだという。トークでは、宇徳がMi-Keの一員として出演した92年の紅白歌合戦でも実は共演していたことが語られるなど、終始和やかなムードだったが、いざ歌い始めると、さすが実力派同士。中西が作曲を手がけた「Choo Choo Train」(91年/Zoo)と「Timing」(98年/ブラックビスケッツ)をグルーヴ感たっぷりにコラボして、観客を魅了する。2曲ともミリオンを突破したヒットチューンで、最近はTikTokでも人気だが、「Timing」ではサビの振り付けをみんなで踊るなど、会場は大いに盛り上がった。
『宇徳敬子ハッピーバースデーライヴ2023 30th Anniversary おめでとう、ありがとう。』の様子(写真:木村直軌) 画像 2/5
しかし、それだけで終わらないのがUKライヴの魅力。その後は一転、バラードの名曲「Good-by morning」(92年)をしっとりとデュエットし、メリハリの効いた構成で酔わせる。昨今の音楽シーンは90年代J-POPの再評価が進んでいるが、2人はともにその時代から活躍を続けるアーティスト。これからのコラボにも期待が膨らむステージであった。
『宇徳敬子ハッピーバースデーライヴ2023 30th Anniversary おめでとう、ありがとう。』の様子(写真:木村直軌) 画像 3/5
そんなトキメキを運んでくれたゲストコーナーのあとは、リクエストが多かった「Strawberry Night」(06年)と、代表曲の1つ「光と影のロマン」(97年)を続けて歌唱。前者では照明もペンライトもイチゴの赤一色となり、スウィートな雰囲気に。後者ではお約束の合唱パートが3年ぶりに復活し、UKファミリーの絆を体感できるひとときとなった。ラストのロングトーンに、この日を迎えられた喜びと感謝の念を感じ取ったのは筆者だけではないはずだ。
実際、宇徳は直後のMCで「心の繋がりを感じて胸が熱くなりました」とコメント。さらに「これからも自分のペースでスローライフを楽しみながら、皆さんとともに歩んでいきたい。本日最後の曲は皆さんとエナジーを1つにして歌いたいと思います」と語り、「あなたは私のENERGY」(95年)を披露した。
それにしても、ここまで90分休みなし。専門家から「自然音に近く、心にまで届きやすい、f分の1のゆらぎを持つ」と評されたオーガニックボイスは疲れ知らずで、寧ろどんどんボルテージが上がっていった。その驚異的なパフォーマンスはまさに「あなたは私のENERGY」。コロナ禍、戦争、環境問題・・・と困難な時代を生き抜く我々に力を与えてくれる歌声と言っていい。
鳴り止まぬ拍手はやがて「UK!」コールになり、程なくしてスクリーンには30周年ロゴに続いて、宇徳の映像が映し出されたが、ここでまたサプライズ。なんとMi-Keのメンバーだった村上遥の姿もあったのだ! アンコールに応え、ツアーTシャツに着替えて登場した宇徳の口から、村上が居住する沖縄の宮古島で撮影されたものであることが明かされたが、そうなれば当然Mi-Keの歌が聴きたくなる。
『宇徳敬子ハッピーバースデーライヴ2023 30th Anniversary おめでとう、ありがとう。』の様子(写真:木村直軌) 画像 4/5 『宇徳敬子ハッピーバースデーライヴ2023 30th Anniversary おめでとう、ありがとう。』の様子(写真:木村直軌) 画像 5/5
ということで、アンコールは怒濤のMi-Keメドレー。UKライヴではお馴染みの企画だが、ファン想いの宇徳は毎回趣向を凝らしており、今回は「白い2白いサンゴ礁」(91年・2は2乗が正式表記)のカップリング曲で、ファンの間で人気の高い「お気に入りのワーゲン」を含む10曲を約20分かけて歌い上げた。
客席総立ちで盛り上がるなか、宇徳は最後のMCで「今日は歌手でよかった!と実感しました。健康だったらなんでもできると思うので、これからも健幸美活を心がけて活動していきたい」と挨拶。「自分が諦めない限り、夢は叶う」との想いを込めて書いたという「One More Chance」(18年)をコール&レスポンスを交えて歌い、記念の公演を締めくくった。
(文:濱口英樹)