LUNA SEAのギタリストとしてだけでなく、ソロアーティストとしても精力的な活動を展開しているINORANが、東横阪ビルボードライヴツアー『IN MY OASIS Billboard Session 2023』を4月1日の大阪公演からスタートさせた。
そもそも『IN MY OASIS Billboard Session』シリーズは、INORANが2019年からBillboard Liveでアコースティック・ライヴを定期的に行ってきたことが発端。チェロとヴァイオリン、ピアノという特別な編成でソロの代表曲を中心に届けてきたアコースティック・ライヴの世界観をより多くの人に伝えるべく、Billboard Live YOKOHAMAでライヴ・レコーディングを実施し、昨年6月に自身のソロ活動25周年を記念したスペシャル・アルバムとして「IN MY OASIS Billboard Session」をリリース。7月から8月にかけて東横阪で発売記念ツアーを開催し、年末にはアルバムのライヴ・レコーディングを映像化したBlu-ray「IN MY OASIS Billboard Session」を発表した経緯があり、今回の東横阪『IN MY OASIS Billboard Session 2023』はこの一連の流れを締めくくるツアーになっている。
その『IN MY OASIS Billboard Session 2023』の初日となった4月1日のBillboard Live OSAKAでの1stステージの模様をお届けするが、今回のツアーは、「新しいことに挑戦する、新しいことを出す、新しい景色を見る。同じことでも新鮮に感じることが大事だと思ってやっています」とMCで語っていたように、キャリアに甘んじることのない彼のチャレンジ精神や音楽への飽くなき探求心などが垣間見られる内容になっていた。
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ツアー初日、さらには1stステージということもあり、開演前はフードや本公演のオリジナル・ドリンク「Glorious Sky」などを味わいながら、ワクワクとした賑やかな雰囲気に包まれていた場内。定刻になると照明が暗転し、SEが流れる中、拍手に迎えられてアコースティック・ライヴではおなじみのメンバー、葉山拓亮(ピアノ)、Yui(ヴァイオリン)、島津由美(チェロ)が登場。そして、最後にひときわ大きな拍手が起こる中、ダブルのジャケットにワイドパンツというスタイリッシュな装いのINORANがステージに現れ、この日のライヴがスタートした。1曲目はアルバムと同じく「raize」から。原曲を知っている人にとっては大幅なアレンジが大きな驚きをもたらすこの楽曲。イントロからバッハの「無伴奏チェロ組曲 第1番:プレリュード」の旋律がチェロで奏でられ、その重厚感ある音色が会場に広がっていく。そこにそのストリングスの音色と溶け合うようなINORANの柔らかな歌声が合わさり、瞬く間に心地よい空間を作り上げていた。続く「Daylight」では、時に優しく、時に力強く歌いかけ、またオフマイクで歌うなど、会場に集まった人たちに歌詞に綴った想いを届けるようにエモーショナルなヴォーカルを響かせ、グッとその世界観に引き込んでいく。「ゆっくり音のシャワーを楽しんでいって欲しい」との言葉どおり、誰もがじっくりと聴き入り、序盤からその良質な音楽に魅了されていた。
中盤ではこのシリーズ公演を行う上で欠かせないメンバーとして、アルバムにも参加しているR&Bシンガー・傳田真央を呼び込み、まずは「Wherever I go」を披露。2人で息を合わせるように顔を見合わせながら、寄り添うように歌声を響かせ、シンディ・ローパーの代表曲をカヴァーした「Time After Time」では、傳田のソウルフルで伸びやかな歌声に呼応するように、リズムに乗りながら、強弱まで息ぴったりのハーモニーで楽しませてくれた。そんな中でこの日一番、というよりも、このツアーで一番の驚きになるであろう光景が。曲が終わり、後ろを向いてニヤリとした笑みを浮かべながらINORANが楽器を準備していたのだが、手にしたのはお馴染みのアコースティック・ギターではなく、なんとテナー・サックス!「新しいことを楽しめたらなと思って」と、歌と共にテナー・サックスを披露したのだ。本人曰く、「昔、少しやったのを思い出して。運指は分からないからまず吹いてみるっていう自己流です」とのことだったが、しっかりと吹き切り、拍手喝采。これにはサポートメンバーの葉山も、「サックスってめちゃくちゃ難しいんですよ。小さい頃、挑戦したことがあったんですけど、全然音出ないし、音程取れないし・・・リハーサル1回ですよ?もう1回拍手頂いてもいいんじゃないでしょうか」と、感心しきりだった。そんなサプライズもあったこのブロック。「ギタリストの自分が歌を歌うようになって、『なんで歌っているんだろう?』って思いながら歌ったりする時もあるんだけど、一緒にハーモニーを奏でるとやっぱり歌って本当に素晴らしいものなんだなって実感する。情熱がさらに増すようにバンドメンバーとツアーを回りたいと思います」と話したように、傳田と共に歌うことで、歌うこと、ハーモニーを紡ぐことを楽しんでいる様子が見て取れただけに、今後のツアーでもさらに進化した魅力的な歌声、グルーヴを聴かせてくれるだろう。
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再びINORANと楽器メンバーで贈った終盤では、「みなさん、見ているだけじゃなくて参加型で、ハンドクラップで参加してもらってもよろしいでしょうか?」と、「Rise Again」の曲前に、ハンドクラップのリズムをレクチャー。声出し解禁公演ではないため、一緒にシンガロングすることはできなかったが、一体となってリズムを奏で、会場全体で音楽を楽しんでいた。そしてラストは、サポートメンバーの各ソロも堪能できた「Thank You」で締め括り。「素晴らしい1stライヴになったと思っています」と、ツアー初日の1stステージを終えたのだった。
MCで、「ライヴはキャッチボールなんですけど、僕がこうやって熱くやればやるほど、みなさんが引いていってしまうという現象が昔からINORANっていうミュージシャンにはありまして(苦笑)。それが嫌だなと思う時期もあったんですけど、今回はちょっと振り切ってやってみようかなと。世界にどっぷり入って、どこまでいけるのかっていうのをテーマに掲げて今回はやっていくので、みなさんそういう中で楽しんでいって頂けるとこれ幸いです」とも語っていたINORAN。とはいえ、「楽しんでもらえるようなライヴを考える、ということは変わらないですね」とライヴ後に話してくれた通り、同じ楽曲であっても前回とは違うアレンジで届けたり、さらにはサックスを披露するなど、新しいものを提供し続けてくれるだけに、何度足を運んでも楽しく、新しい発見が待つライヴになっている。特にアレンジに関しては、「今回はもっともっと僕が知らないような世界、アレンジをやりませんかとリハーサル前に葉山くんに無茶ぶりをして。(急だったので)僕がアレンジをオーダーした中で完成したのは、3分の1くらい」とも明かしていたので、この後に続く横浜、東京公演ではさらにアレンジされた楽曲たちが待っているはずだ。
「前回よりバージョンアップしていますし、サックス含め、ぜひ見てもらいたいですね。サックスはいつ辞めるかわからないので、早めに見てもらえたら(笑)。前回よりも強い思いで臨んでいますし、アコースティック独特の雰囲気や、魂が震えるというところを感じてもらいたいですね」(INORAN)。
彼がサポートメンバーと共に作りだす豊かで心地よいオアシスで、日常の喧騒をひと時でも忘れさせてくれる極上の癒しの音楽にどっぷりと浸りながら、公演ごとに進化する様を見てもらいたい。
(Text by Yu-ki Kaneko)