2023.04.14 公開
【ライブレポート】Petit Brabanconが「KNOTFEST JAPAN 2023」初出演 鋭利なステージングは深い爪痕を残す

PetitBrabancon (撮影◎河本悠貴/Taka「nekoze photo」)  画像 1/8

4月2日、Petit BrabanconがKNOTFEST JAPAN 2023に出演した。

これはPetit Brabanconにとって初のフェス出演である。コロナ禍真っ只中の2021年に始動、2022年にファーストアルバム『Fetish』をリリースしてツアー『Resonance of the corpse』を実施と、手練によるドリームチームとしてではなく、あくまでゼロから始まったロックバンドとして初期衝動を解放し続けてきた2年間である。その成果と鋭利さが、フェスのショートセットの中で衝動的に解放されていくようなアクトだった。

本国では「Dark Carnival」と愛称される、メタル、ニューメタル、ポストハードコアの祭典。その暗黒祭は気持ちのいい晴天に恵まれ、爽やかな風が吹き抜けている。そんな穏やかな空気を切り裂かんとするように、牙を剥くプチブラバンソンが描かれた黒いバックドロップがステージ上に君臨。普段は穏やかで友好的な犬であるプチブラバンソンが怒り吠えるこの絵が、まさにPetit Brabanconの音楽が何たるかをそのまま表していると改めて思う。世界、慣習、普通の形に対して従順だと思ったら大間違いだ、人間の型の外で這い回って叫びながら存在する命がある--そんな表明が「安穏なものが凶暴化して狂っていく」という姿に表れているのだ。京(Voice/DIR EN GREY)がyukihiro(Dr/L'Arc-en-Ciel 、ACID ANDROID)に声をかけてゼロからバンドがスタートしたのが、ウィルスの脅威以上に人間の構造の歪みを暴露し続けたコロナ禍のど真ん中であったこと。それは、京が怒りと衝動と嘆きをより一層ストレートに叫ぶ必然性を時代の中に感じ取ったからなのだと思う。そしてまさに、インダストリアルなビートを叫び一発で切り裂いていくPetit Brabanconの歌は、あらゆる構造によって人間の匂いがなきものにされていく密閉された社会と「俺はここにいる」という表明を同時に描いているものなのだ。

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午前11時、ステージに5人が現れる。文字通り黒山の人だかりになったピットを京が両手で煽りながら『Isolated spiral』がスタートした。挨拶は「かかってこい」の一言である。重たいビートと不穏なギターが絡み合って漆黒の渦を作り出すこの楽曲は、まさにPetit Brabanconの心臓部分を表している。体を捻りながら読経とグロウルを行き来する京に、antz(Gt/Tokyo Shogazer)とミヤ(Gt/MUCC)の怒鳴りが重なってビルドアップしていく様は、真綿で首を絞められて生きる人間が限界から発する怒りの表明そのものである。

「クソどもが、吐き出してこい! 溜まってんだろ!」。この京の言葉は、ステージ上から「クソ」を見下ろす者の言葉ではない。むしろ、この爆音の中では共闘の言葉として聞こえてくるから不思議である。ひとつになれない、愛を答えにできない、「みんな」という言葉が空虚にしか見えない--そんな、普通の外でしか生きられないが故に「クソ」として日々を這い回る人間のためにこの歌はあるのだ。歌詩の中に込められた怒りと悲しみは、そしてステージ上でのたうち回るような京の姿は、それを徹底的に訴えている。立て続けにプレイされた“渇き”ではさらに痛切なグロウルが鳴り響き、その叫びに呼応して観客も半狂乱の様相である。誰もがバラバラ、誰もが好きなように自分の衝動を解放し、相容れない人間達のユナイトとでも言いたくなるような、ある種の矛盾が成立している様が美しい。

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観客のハンドクラップを煽ってantzとミヤと高松浩史(Ba/The Novembers)が縦に跳ねた『OBEY』でも、一見ポップな曲調を敢えて汚す不穏なギター、毒々しい声の螺旋が印象的だ。緻密なアンサンブルでありながら、しかしそれを自分達自身でぶっ壊していくような、そんな衝動一発のアクトが連打されていく。語りと叫びが目まぐるしく入れ替わっていく『I kill myself』では、京の声自体がグルーヴの中核を担う。yukihiroの繰り出すビート感だけに限らず、5人それぞれが発するサウンド・怒鳴り、体自体がリズムと歌心になっていて、それこそがこの音楽の心臓にある「気持ち悪い」「居心地が悪い」「世界に俺がいない」という感覚を物語っている。

「もっといけんだろうが!」という京の怒号からなだれ込んだ『Don’t forget』からはさらにバンド全体が直情的に昇っていく。ドラムンベースのリズムを背骨にしたこの楽曲は、Petit Brabanconの凶暴性を「感じさせる」のではなくストレートに叩きつけるものである。目覚めろ、覚醒せよと何度も訴えるようなこの歌を、ステージ前方の鉄箱に登って叫び続ける京。ピットではクラウドサーフとモッシュが巻き起こり、さらなる熱の交感がバンドと観客の間に生まれていく。『Don’t forget』--怒りと苦しみを抱えていること自体がお前はお前である証明なのだと訴え、それを刻みつけて忘れないための歌。この歌は、このバンドは、傷でしか自分の輪郭を認識できない人間を赦し、そして代弁しようとしているのだ。ただの怒りではない。ただの嘆きではない。痛みを共通言語にするしかない人間の、孤独の共同体として叫び続けるのがPetit Brabanconなのである。曲ごとに衝動を解放して体をステージに叩きつけるようになっていく5人の姿からは、そんなことを感じてしょうがない。

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2本のギターとベースがドス黒い螺旋を描く『Pull the trigger』、エキゾチックな同期音からヘヴィなアンサンブルに雪崩れ込んでいく『無秩序は無口と謳う』、そして「狂っちまえ!」という口上が叩きつけられたラストナンバー『疑音』。京がマイクを放り投げ、「ボコッ」という音と共にステージを去っていくPetit Brabanconの5人。最後までステージ上に残ったのは、ミヤのギターの残響だった。最後の最後まで鋭利な音だけを突き刺して深い爪痕を残していく様にもまた、Petit Brabanconの音楽の意味そのものを感じるのだった。

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なお、Petit Brabanconは6月に新たなEPをリリースすることを発表し、7月からは全国6箇所を回るツアー「INDENTED BITE MARK」の開催が決定している。コロナ禍におけるガイドラインと同時に、人間の怯えが引き起こす攻撃と軋轢に心が縛られ続けた数年。そんな長い夜が明けんとしている2023年、徹底して衝動に従順な彼らの音楽はいよいよ本領を発揮するだろう。叫べばいい、もがけばいい、生きればいい。Petit Brabanconはそう歌い続ける。

(文◎矢島大地(MUSICA))

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