2023.06.21 公開
【ライブレポート】Awesome City Club、「さよなら中野サンプラザ音楽祭」の一環でワンマン開催!「『Awesome シニア Club』になってもついてきてくれますか」

Awesome City Club(写真:川島伸一)  画像 1/18

6月17日、中野サンプラザにて、Awesome City Clubがワンマンライブを開催した。本公演は、7月に閉館する中野サンプラザの50年の歴史を締めくくるイベント『さよなら中野サンプラザ音楽祭』の一環として行われたもの。Awesome City Clubにとっては2021年8月9日に開催した『Awesome Talks - One Man Show 2021 -』以来の中野サンプラザ公演であり、そもそもワンマンライブを開催するのが約1年ぶり。Awesome City Clubの音楽的な多面性と歴史、そして未来への変化を凝縮したライブとなった。

開場中、ステージ上に置かれたレコードプレイヤーから鳥のさえずりが流れる。PORINにとって「庭園」は実家にもある大切なものであり、彼女のアパレルブランドやソロプロジェクトでもモチーフになっているもの。そんな庭園を思わせる心落ち着く音で、Awesome City Clubの「庭」へと誘われるようだ。ステージ上には、公演前にメンバーがインタビューで話していた通り、楽器やアンプがたくさん置かれていて真ん中には絨毯が。そんな舞台のセットも、Awesome City Clubにとっての「ホーム」を演出しているよう。

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開演時間になるとゆっくりと照明が落ちていき、温かい拍手に迎えられる中、サポートメンバー3人を含めた6人が登場。下手(ステージに向かって左側)からatagi、宮川純(Key)、モリシー、PORIN、林あぐり(Ba)、伊吹文裕(Dr)の順で半円を描くように並ぶ。終演後にメンバーから話を聞くと、この立ち位置はバンドとして変化し続けるための初の試みだったという。この立ち位置もまたオーディエンスを輪の中へと招くようで、中野サンプラザがAwesome City Clubの温かいホームと化していた。

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PORINがレコードプレイヤーから針を上げると、「ワン、ツー!」とドラムのカウントにモリシーの爽快なギターカッティングが乗って、オーディエンスのクラップも交わり、冒頭からグルーヴィーな音の渦で会場を包み込んでいく。1曲目に演奏されたのは「SHIBUYA MARK CITY CITY POP PROJECT」のイメージソングとして書き下ろされた「Talkin’ Talkin’」。atagiのルーツが色濃く見えるミニマルファンクで、Awesome City Clubのライブという空間では《誰も見た事ない顔見せてよ》とオーディエンスを解放へと導いていく。間奏では「どうもAwesome City Clubです! やっとみんなに会えました!」と喜びを見せるatagiに、人差し指と中指でハートマークを作るPORIN。続けて「SUNNY GIRL」、「Heart of Gold」、「夏の午後はコバルト」と、太陽が降り注ぐ夏の特別な1日を音楽で浮かび上がらせるように描いていく。梅雨のど真ん中にもかかわらず夏を先取りするような晴天だったこの日にもぴったりなサウンドスケープだ。


MCでは「声出し解禁後、初めてのライブです」という言葉に会場から大きな歓声が湧き、「やばい、泣いちゃうかも」とこぼすPORINと、同じく感動するatagiとモリシー。そこからは「またたき」、『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』のインスパイアソング「ユメ ユメ ユメ」、主題歌「Setting Sail 〜 モダンラブ・東京 〜」と、比較的最近の楽曲を立て続けに披露。atagiとPORINによる二人の歌が繊細に絡まり合って聴き手の心を優しくタッチし、そしてモリシーが奏でるギターで心の蓋をあけて奥で眠らせていた感情を溢れ出させてくれる。

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中盤ではまたもや新たな試みが。モリシーがひとりで弾き語りを人生初披露。Joni Mitchellの「Both Sides Now」を、普段のダンディな声からは想像もつかない美しいファルセットで歌い上げる。ステージ上の絨毯に座っていたPORINも、atagiも、そしてオーディエンスも酔いしれる時間だった。ちなみにJoni Mitchellは1976年に中野サンプラザでライブを予定していたものの中止になった過去があり、閉館前にJoni Mitchellの音楽をこの場で鳴らすことにも意味を感じていたという。そしてatagiも弾き語りで、永積タカシの細かなニュアンスまで汲み取った丁寧なカバーでSUPER BUTTER DOG「さよならCOLOR」を披露してくれた。

そのまま3人で「タイムスペース」をアコースティックバージョンで演奏。そして再度サポートメンバーを呼び込み、ライブは後半へと突入。「初期の曲をやりたいと思います」というatagiの言葉から、うしろのカーテンが上がってミラーボールが回る中で演奏されたのは「涙の上海ナイト」。声出しが解禁された今だからこそ実現できた《トン・ナン・シャー・ペー》のコール&レスポンスで会場全体にさらなる笑顔が溢れる。続けて「Don’t Think, Feel」、「アウトサイダー」、「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」でフロアを踊らせる。これらの楽曲は6〜8年前のものであるが、まったく色褪せず、むしろ最新リリースのプレイリストに入っていたとしても際立って聴こえてくるだろう。Awesome City Clubは2015年頃からいち早く、ブラックミュージックをはじめとした多彩なジャンルの要素を良質なポップスに昇華し鳴らしてきたバンドであり、昨今のJ-POPを形容するときにもよく使われる「シティポップ」というジャンルの土台を、先人たちの音楽を受け継ぎながら築き上げることの一端を担ったバンドであるからだ。

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「いろんな変遷をもってしてAwesome City Clubというバンドを続けてきました」という言葉通り、紆余曲折を経験しながらも音を止めずに、ライブで声が聞けないコロナ禍も乗り越えてきたAwesome City Clubのソングライターでありボーカリストであるatagiが、これまで背負ってきた苦悩や責任感の大きさは想像に難くない。スポットライトを浴びながら「音楽って何だっけ。僕は何がしたくて音楽をやってるんだろう。そういうことを考えるんですけど、僕がいつも心に留めているのは、音楽とは、人にとっては救急箱のお薬のようなものだったり、また人にとっては秘密基地のような隠れ場所になったり、僕らのそばにあってくれるものだということ。僕らの音楽がみんなにとっての楽園になったらいいなと思っています」と語ってから歌った「楽園」には、atagi自身にとっても音楽が楽園であってほしいといった願いが込められているように聴こえた。スタジアムロックをAwesome City Clubなりに昇華した「On Your Mark」を挟んで、次はPORINがスポットライトを浴びながら言葉を紡ぐ。


「我々もまもなくデビュー10周年を迎えます。あっという間だけど、振り返ると本当に色々あったなって思います。今こうして私たちが満足に楽しく音楽できているのも奇跡に近いことなんだろうなってつくづく思います。こうやってステージに立てているのも、ここにいるみんなのおかげです。ここまで来たからにはバンドを長く続けられるように頑張っていきたいので、『Awesome シニア Club』になってもついてきてくれますか?」と言葉を投げると、客席からは笑いとともに温かい拍手が湧く。そしてオーディエンスがスマホライトをかざす中で歌ったのは、PORINがボーカルをとる、TBS系火曜ドラマ『王様に捧ぐ薬指』挿入歌の「アイオライト」。アイオライトには様々な意味や言い伝えがあるが、迷うことなく夢や目的地へと到達するための道しるべを象徴する石だとも言われている。PORINの言葉のあとに「アイオライト」を歌いながらオーディエンス一人ひとりの光が輝いていた、その数分間の景色は、まるでオーディエンスこそがAwesome City Clubにとっての夢や目的地へと続く道を照らす存在であることを象徴しているように見えた。

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終盤は、バンドの歴史においてターニングポイントとなった「勿忘」から、「いろんなAwesomeを感じてもらえたと思うし、我々が歩んできた歴史を聴いていただけたんじゃないかなと思います」とatagiがこの日を振り返って、「you」の大合唱へ。壮大な音に包まれながら、今後はAwesome City Clubがオーディエンス一人ひとりの行先を真っ白な光で照らしてくれるような時間だった。

アンコールの声に呼ばれて、再びステージに登場したAwesome City Club。最新曲「アイオライト」のミュージックビデオをみんなで作るプロジェクトを発表し、オーディエンスにそれぞれのスマホでの撮影を呼びかける。たくさんのスマホカメラがステージに向けられる中、「アイオライト」をもう一度演奏するという特別な時間に。なお、オーディエンスが撮影した素材を使ったミュージックビデオは後日公開される予定。

Awesome City Clubが中野サンプラザ最後の演奏に選んだのは、「Lullaby for TOKYO CITY」。Awesome City Clubは、もしかしたら華やかに見えるかもしれない(し、実際そうである)が、3人ともに不器用な部分を抱えている人たちだ。それでも、みんなのささやかな幸せや平和を願っている。その願いを、音の美しさとグルーヴに託している。日々抱える苦悩や違和感を、どうにか音の多幸感で包み込もうとしている。最後、オルガンにギターの轟音が乗って、PORINもエレキギターを抱えながら6つの楽器の音が渦巻いた時間には、祈りと、多幸感と、感情の蓋をあけること、それらすべてが詰め込まれていた。

テキスト:矢島由佳子
写真:川島伸一

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