東京、大阪と続いて、2023年11月9日(木)の名古屋公演でFINALを迎えた、GLIM SPANKY「Velvet Theater 2023」。
8月5日に開催された「Velvet Theater 2023」東京公演のオフィシャルライブレポートが到着した。
GLIM SPANKYが2013年にリリースした初のEP『MUSIC FREAK』は、60年代~00年代のリヴァイバルも含めたブルース/ガレージロックからの影響が色濃いストレートで荒々しい作品だった。
あれから約10年。松尾レミ(Vo/Gt)、亀本寛貴(Gt)の二人が歩んできたキャリアをあらためて辿ると、その音楽性はときにゆるやかで、ときにめまぐるしい変化と拡張を繰り返してきたことがわかる。
〈Velvet Theater 2023〉(撮影:上飯坂一) 画像 2/9
そこには、自身の成長、メジャーに移籍したことにより環境が変わったこと、時代の移り変わりなど、さまざまな要因があったことだろう。
いずれにせよ人はただ息をしているだけでも時とともに変わっていくもの。そう考えるとごく当然のことだと考えられるが、2020年にリリースした5thアルバム『Walking On Fire』や最新6thアルバム『Into The Time Hole』で、ネオソウルやR&Bを前面に打ち出してくるところまでは予想できなかった。
しかしそこに違和感はまったくない。とにかく柔軟で自由、しかしある部分ではそれと同じくらい頑固。だから何をやってもそれはGLIM SPANKYのロックになる。
〈Velvet Theater 2023〉(撮影:上飯坂一) 画像 3/9
では、そのGLIM SPANKYをGLIM SPANKYたらしめる理由は何のか。その答えの一つは、主にサイケデリックカルチャーに由来する『GLIM=幻想的な世界観』と、聴く者の感情をダイレクトに揺さぶる『SPANKY=アグレッシブな姿勢』という、バンド名が示す二つの軸を表現の源に持っていることだと思う。
私はGLIM SPANKYの、それらの間にあるグラデーションや、それらを起点にした変化や開拓精神に魅せられ続けてきた。
『Velvet Theater』は、そんなGLIM SPANKYの『GLIM』な側面にフォーカスしたコンセプトライブで、2015年から不定期開催されており今回で4回目となる。
松尾はサイケデリックロック、アシッドフォーク、スウィンギングロンドン、ビートニクスや幻想文学といったレトロカルチャー/ムーブメントから受けた刺激を、作詞作曲だけでなくマーチャンダイズのデザインなどのさまざまなワークスに落とし込み、自身のSNSアカウントでもファッションやライフスタイルを発信し続けている。
〈Velvet Theater 2023〉(撮影:上飯坂一) 画像 4/9
亀本はそんな松尾の世界観を現在進行のロックやポップという概念と融合させる、重要な役割を担い続けてきた印象が強い。
すなわちこのパーティーには、二人のオールタイムアティチュードの深みを表現するという、ワンマンライブやフェス、対バンイベントとはまた異なる、並々ならぬ思いが込められているのだ。
今回の会場はいつもの東京キネマ倶楽部ではなく、恵比寿The Garden Hall。
キネマ倶楽部は、昭和のグランドキャバレーの風情を残した内装、キャパ600人という中規模ならではのパーティー感、鶯谷という都心から離れた立地など、あらゆる要素がGLIM SPANKYフリークスが集う『Velvet Theater』とマッチしていた。それだけにオールマイティーなホールでキャパも3倍近くに膨れ上がったThe Garden Hallでの公演に対して、期待と若干の不安もあったが、結論から言うと素晴らしいステージだった。
〈Velvet Theater 2023〉(撮影:上飯坂一) 画像 5/9
松尾と亀本をサポートするバンドメンバーは、GLIM SPANKYを初期から支えるベーシスト、その静かな佇まいが若き日のビル・ワイマンと重なる栗原大、「私が言葉で伝えた抽象的なイメージを音にしてくれる」と松尾が紹介したキーボードの中込陽大、GLIM SPANKYの二人と兼ねてから交流のある同世代の売れっ子ドラマーで、サイケデリックという共通のルーツを持つ大井一彌(DATS / yahyel)。
映像は『Velvet Theater』だけでなく『フジロックフェスティバル』などにも帯同していた、GLIM SPANKYのサイケデリックな世界観の演出には欠かせなOverLightShow~大箱屋~の大場雄一郎とVJ石榴が担当した。
まさに盤石。松尾と亀本の精神の奥深くから湧き上がるイマジネーションがビッグなスケール感で鳴らされる。ステージ奥ビッグなスクリーン。
〈Velvet Theater 2023〉(撮影:上飯坂一) 画像 6/9
そこに、60年代のリキッドライトを踏襲しつつ独自の技法でアナログの可能性を突き詰める大場と、デジタルからレトロもモダンも捉えた石榴のアシッドな映像が映し出され、バンドのサウンドに輪をかけて没入感とトリップ感を煽っていた。
メンバーが静かに登場し、1曲目は「Velvet Theater」。アーシーなサイケデリックロックからブリッジでテンポアップして超自然的なサウンドスケープへ。
そこからテンポを戻して亀本の泣きのギターソロに繋がる流れがたまらない。続いては最新アルバム『Into The Time Home』から「レイトショーへと」。R&Bやジャズとサイケデリックロックの融合によって生み出されるグルーヴに体が揺れる。
松尾は肝の据わったハスキーボイスに注目が集まりがちだが、高音域の地声からファルセットへと移るグラデーションの繊細な美しさにもうっとりする。そして『アーヤと魔女 SONGBOOK ライムアベニュー13番地』収録の「A Black Cat」と、続けて横ノリを演出しフロアを温めた。
「今日は最高のパーティーにして、最高な夜の世界にみんなで迷い込もうと思います」と松尾が話し、「NIGHT LAN DOT」へ。そしていよいよGLIM SPANKYのディープな世界観が炸裂する。
大陸が音を上げているような大井のドラムと東洋的な亀本のギターフレーズ、松尾の砂漠に対する想像力が溢れる言葉とメロディのシナジーが凄まじい「MIDNIGHT CIRCUS」は、シルクロードの過酷な旅の途中に見る夢のようだ。
〈Velvet Theater 2023〉(撮影:上飯坂一) 画像 7/9
続いて松尾がアカペラで〈夜景画の山肌に月が顔出して〉と風景を歌う始まりからサイケデリックな世界の深みへと誘う「闇に目を凝らせば」。
リキッドライトというアナログパフォーマンスだからこその生命力や色彩と、VJのデジタルが描く神秘の世界が入り混じる映像もリンクして、東京都渋谷区の夕刻という感覚が飛ぶ。
そしてタイトルからして挑発的なガレージロック「ダミーロックとブルース」、松尾のポエトリーリーディングから入るタイトル未定曲、柔らかでドリーミーなフォーク「AM06:30」と、一言で『幻想的』と言ってもさまざまなアプローチをみせる。
そこから120BPMのディスコ「In the air」、さらにテンポと温度を上げた「吹き抜く風のように」と、サイケデリックに根差しながらフロアにダンスの魔法をかけた。
大きな歓声と拍手とともにMCへ。松尾が「「Velvet Theater」なんでね、特別ですよ今日」と話していたように、GLIM SPANKYが8曲も立て続けに演奏することは珍しい。
「ガーデンホールってね、こっからみるとわりとZeppっすね」と、ここでようやく亀本のアットホームな言葉が飛び出し観客からも大きな笑い声が。
松尾はサブスクリプションサービス/プレイリスト時代に入り聴かれにくくなったアルバム曲について、「そうならないように1曲1曲を同じレベルの愛情で作っている」と話し、続けて「今回はそれをタイトルにしました。1曲1曲を、今まで以上に開けた感じの曲も作っているし、楽しく作っています」と、11月15日の発売に向けて絶賛制作中のニューアルバム『The Goldmine』への想いを語った。
〈Velvet Theater 2023〉(撮影:上飯坂一) 画像 8/9
ステージは後半へ。GLIM SPANKYのオリジナル作品には未収録だが、「ずっと演奏したかった。アシッドフォークやバロックポップから影響を受けた趣味爆発の曲。『Velvet Theater』にはぴったりだと思う」と松尾が話し、『アーヤと魔女 SONGBOOK ライムアベニュー13番地』から「The House in Lime Avenue」を演奏。
のどかな田園にサイケデリックの風が吹くようなナンバーで会場を優しく包み込む。
続いてコロナ禍で外出制限のあった時期に作った宅録音源がベースになっているR&B調の「こんな夜更けは」、夢見心地でほのぼのしたサウンドとアンセミックなサビのメロディのマッチングが印象的な「美しい棘」と、『Velvet Theater』な世界観から生まれた代表曲を続けた。
そして亀本が「GLIM SPANKYのライブですから、ロックなやつ?(中略)やっぱやりてえよなっ。どうでしょうか!」とガツンとくる『SPANKY』なロックを演奏することを示唆し、「Breaking Down Blues」を演奏。
そのキャリア中もっともヘビーなリフとビートが鳴った瞬間、フロアには揺れる頭と突き上がる拳の波が。これまでのパフォーマンスとのコントラストで松尾のエッジーなボーカルもさらに鋭さを増して聞こえてくる。
そして最速の代表曲「怒りをくれよ」で場内のエモーションは爆発。爽快なロックンロールもボトムの低いブルースも、サイケデリックな色彩感も併せ持つ最新曲「Odd Dancer」でフィジカルな盛り上がりがさらに高まり、最後はライブでのビッグアンセム「大人になったら」。
好きなことを突き詰める人たちの背中を押すような曲だけに、松尾と亀本のパーソナルな側面の強い『Velvet Theater』で浴びるとひとしおだ。
アンコールはシンセベースを惜しげもなく鳴らして宇宙を描くようなサイケデリアと、ビッグスケールなダウンビートで20年代のGLIM SPANKYの新機軸を示し、目に見える盛り上がりという意味では速い曲が目立っていたライブにも風穴を開けた「Circle Of Time」。
その魅力は健在。圧倒的に深く強く熱狂的な動きとムードに満ちたフロアは絶景だった。そして最後の最後は30代に入った二人が高校生の頃に作った曲で、2014年にリリースしたメジャーデビューEPのタイトル曲「焦燥」を演奏。
〈Velvet Theater 2023〉(撮影:上飯坂一) 画像 9/9
ヘビーなブルース、ガレージサイケと疾走するオルタナティブロックが感情を絞り出したようなメロディとともにめくるめく展開する、GLIM SPANKYワールドの原石のような曲が、観客のテンションを引っ張り、フロアに激震を起こしてこの日は幕を閉じた。
MCで亀本がフロアに向かって「『Velvet Theater』が初めてのGLIM SPANKYのライブだという人?」と訊くと、予想以上の数の手が上がったことに驚いていたが、それこそが今のGLIM SPANKYなのだと思う。
二人は世界的にロックの存在感が薄まっていく10年代をロックバンドとして生きてきた。そんな時代の流れを見据えながらも決して迎合することなく、なおかつかつて隆盛を誇ったロックにしがみつくこともなく、自らの信じるロックと向き合い、その魅力を拡張させてきた。
その結果生まれた多彩な作品群が、サブスクリプションサービスの台頭によりリスナーが多様化する時代にフィットしているように思う。
ジャンル特化型のリスナーから、ロック云々関係なくただGLIM SPANKYが好きなリスナーまで、この場所に集まった人々の理由もさまざまだったのではないだろうか。
だからこそ、11月15日にリリースされるニューアルバム『The Goldmine』が世の中にどう響くのか、GLIM SPANKYがこれからどのような道を歩むのか、楽しみで仕方がない。