2023年11月18日の宮城・ゼビオアリーナ仙台を皮切りに全国6都市12公演を展開してきたVaundyのツアー「Vaundy one man live ARENA tour replica ZERO」。2024年1月21日、そのファイナルが東京・国立代々木競技場第一体育館で行われた。今回のツアーはアルバム『replica』のリリースツアーであると同時に、Vaundyにとっては自身最大規模となる初のアリーナツアー。会場の規模も、そこで繰り広げられる演出やパフォーマンスもスケールアップを果たしたそのライブは、これまで観てきたVaundyのワンマンライブとは明らかに違っていた。大観衆を前に、その視線と歓声を一身に浴びながら力強く繰り出される楽曲の数々。その真ん中でますます堂々とした存在感を放つVaundyの歌。これは新しいVaundyのライブを観るたびにいつも思うことなのだが、やはりVaundyは我々のイメージの先を行く。代々木第一体育館で目撃したのは、ポップミュージックとしてまたひとつ段階を上った彼の姿だった。
Vaundy(C)日吉JP純平、太田好治 画像 2/9 Vaundy(C)日吉JP純平、太田好治 画像 3/9
ライブはアルバムどおり、SEの「Audio 007」から「ZERO」へという流れで始まる。重低音が鳴り響き、ステージ下からせり上がってきたVaundyがいよいよオーディエンスの前に登場すると、会場中から大きな歓声が巻き起こった。巨大なステージの中央からはアリーナの真ん中に向かって花道がまっすぐ伸びていて、Vaundyはそこを威風堂々と歩きながら声を響かせる。途中でマイクスタンドを手にしてセンターステージに辿り着くと、360°お客さんに囲まれた中で、そのマイクスタンドに向かって歌う。手を広げ、もっと声をくれとでも言わんばかりにその手を振り、「始めようぜ!」と叫ぶ……まるでロックスターのようだ。もちろんそんな彼を観て会場の高揚感はさらに高まっていく。続いて「裸の勇者」がオーディエンスの手拍子とともに鳴らされる頃には、会場に着いたときに感じていた冬の寒さは一気に吹き飛んでいた。
「美電球」のタイトなグルーヴに、「恋風邪にのせて」の爽やかなギターサウンド、そして妖しげな赤いライトに照らされるなか切先鋭く響いた「カーニバル」のリズム……序盤からVaundyらしい振り幅を見せつけながらライブは進んでいく。Vaundy自身の声も、これが最終日ということもあるのだろうか、いつも以上に力がこもっている気がする。そして「カーニバル」を終えると「よう、元気か?」と挨拶。このライブがWOWOWで生中継されていることに触れつつ、「踊っちゃいなよ!」とオーディエンスを煽る。そうして「踊り子」に突入していくのだが、それを終えると今度は「それじゃ踊れてないぜ」とまさかのダメ出し。まだまだ盛り上がりが足りないとばかりに「踊ってみせろよ!」と叫び声を上げる。そう言われてオーディエンスも黙っていない。続く「常熱」では、ミラーボールがキラキラと光を反射するなか、アリーナでもスタンドでも激しく体を揺らす人が続出した。
Vaundy(C)日吉JP純平、太田好治 画像 6/9そうやってガンガンアッパーに盛り上げながら、その次にパーソナルでダークな「宮」をもってくるという展開もなんともVaundyらしい。その「宮」ではステージに置かれた椅子にもたれかかるように座りながらパフォーマンス。こういう、いわば「仕掛け」みたいな演出も、じつはこれまでのVaundyのライブでは見られなかったものだ。相変わらずステージにはLEDスクリーンなどの映像装置はなし、バンドとVaundyだけでひたすら熱量を上げていくようなステージングはストイックとすらいえるものだが、それだけにこの椅子でのパフォーマンスは印象的だった。印象的ということでは、「黒子」での照明演出もすばらしかった。「黒子」も「宮」と同じようにVaundyの内面を感じさせるような楽曲になっているが、そのサウンドや歌詞と、青いレーザー光線や音とシンクロしたフラッシュライトが織りなすスペクタクルのコントラストが、楽曲の深みをより強調していた。
会場にいる全員がじっくりと聴き入るなか最後のロングトーンも鮮やかに響き渡った「呼吸のように」を終えると、ここで再びのインターバル。『映画ドラえもんのび太の地球交響楽』の主題歌である新曲「タイムパラドックス」が2月28日にCDシングルとしてリリースされること、7月の幕張メッセワンマン2daysがソールドアウトしたことを伝えると、さらにここで今年11月から新たなアリーナツアー「Vaundy one man live ARENA tour 2024-2025」を6都市12公演の規模で開催することを発表すると、場内からは大きな拍手と「うおー!」という歓声が起きた。そしてこの日でツアーが終了するということに触れ、「明日、俺が休みにしてやるよ。それぐらい本気でやろうぜ!」とさらにオーディエンスの興奮を煽り立ててライブは後半戦に突入していった。
「Tokimeki」で始まった後半戦はのっけからものすごい一体感。Vaundyの歌もますます力強く響く。
ホーンの音色も華やかな「花占い」では客席中でオーディエンスの手が揺れ、手拍子が打ち鳴らされる。一気にボルテージが上がってきた客席に向けて「まだまだいくぞ!」と「トドメの一撃 feat.Cory Wong」を投下。花道をフルに活用しながら繰り広げられるVaundyのパフォーマンスが、クライマックスに向けてますます場内を盛り上げていく。バンドメンバーと息を合わせてサイドステップを踏む彼もオーディエンスと同じように楽しそうだ。そして「気付いたら終わっちまってるぜ!」とさらにテンションを上げることを全員に要求しつつ「CHAINSAW BLOOD」に突入。エンジンの起動音を合図に、これぞアンセムというべき圧巻のサウンドが鳴らされる。そこに「見せてやるよ、これが本当のライブだ!」と「逆光-replica-」を畳み掛けるのだから、もちろん客席は最高潮である。メンバーの増えたバンドの演奏もパワーアップ、そのパワーに負けないくらいの歌をVaundyは轟かせる。『replica』で生み出した楽曲の振り幅もさることながら、その演奏と歌の肉体的な進化が、このライブのダイナミックな魅力を生み出している。最初の「ZERO」からそうだったが、今のVaundyのライブはますますフィジカルでエモーショナルなものになってきているのだ。
そしていよいよライブは最終盤。Vaundyを代表するアンセム「怪獣の花唄-replica-」で一面のシンガロングを生み出すと、「またみんなに会えるのを楽しみにしています」と告げて最後の曲「replica」へ。アルバムを象徴するタイトルトラックが、アリーナにふさわしいスケールで広がっていく。すべてを終えると、光に包まれてステージから消えていったVaundy。彼が姿を消した後も、会場のなかには高揚した空気が漂い続けていた。ライブ中彼は「明日から1ヶ月休む」と冗談めかして言っていたが、MCにもあったとおり夏の幕張メッセも、秋からのツアーも決まっている。2024年もVaundyはさらにギアを上げて突っ走るだろう。その行く末が改めて楽しみになった。
(文:小川智宏)
▼セットリスト
「Vaundy one man live ARENA tour “replica ZERO”」
at 東京・国立代々木競技場第一体育館
1.ZERO
2.裸の勇者
3.美電球
4.恋風邪にのせて
5.カーニバル
6.踊り子
7.常熱
8.宮
9.そんなbitterな話
10.黒子
11.NEO JAPAN
12.不可幸力
13.呼吸のように
14.Tokimeki
15.花占い
16.トドメの一撃 feat. Cory Wong
17.CHAINSAW BLOOD
18.逆光-replica-
19.怪獣の花唄-replica-
20.replica