吉川晃司と布袋寅泰による伝説的なユニット、
COMPLEXのチャリティーライブが2024年5月15、
16日の2日間、東京ドームで開催された。2日間の
動員数はのべ10万人。この公演は2024年1月1日に
起こった「令和6年能登半島地震」の復興支援を
目的としたもので、「日本一心」の旗を掲げて
行われた。公演の利益の全ては被災地の復旧、
復興のために寄付される。
COMPLEXは2011年7月30、31日にも
「日本一心」の旗を掲げて、東日本大
震災の復興支援のための公演を開催して
いる。今回のステージはその時以来で、
吉川と布袋が同じステージに立つのは
13年ぶりだ。COMPLEXの結成は約36
年前の1988年。1990年11月8日の東京
ドーム公演をもって活動休止している。
その後、ライブが行われたのは2011年の
2公演のみだ。今回、生COMPLEXを
初めて観た人も多いだろう。
ここでは初日公演の模様をレポートする。
COMPLEX 「日本一心」(撮影:山本倫子) 画像 2/6
スクリーンに浮かびあがった「20240515-16」
という日付の数字が始まりの合図だった。
過去のライブ映像が流れ、2011年の東京
ドームでの吉川と布袋が握手する場面も
映し出された。このシーンは日本のロック
史上に残る屈指の名場面の一つだろう。
今回の公演の幕開けの曲は13年前と同じ
「BE MY BABY」だ。5万人によるハンド
クラップの中、吉川が上手から、布袋が
下手から登場し、歩み寄って握手した。
13年前の歴史的な場面を再現するような
始まり方だ。「両雄並び立たず」という
故事成語があるが、両雄が並び立って
いるのがCOMPLEXである。同じ目的の
もと、力を合わせているCOMPLEXの
存在そのものが「日本一心」の趣旨を
体現している。
鍛え抜かれた吉川の歌声と多彩な表現を
究めている布袋のギターの組み合わせは
絶妙だ。1曲目から会場内が熱気に包まれた。
布袋はステップを踏みつつの演奏。
エンディングでは吉川がシンバルキックを
試みるも空振り。側転しながらのシンバル
キックに変更して成功すると、どよめきと
歓声が起こった。何から何まで破格な二人は、
パフォーマンスも唯一無二だ。吉川は外傷性
白内障と診断され、1月に手術をしている。
衝撃に注意しなければならない中、
渾身の力で向かっていく姿に胸が熱くなった。
COMPLEX 「日本一心」(撮影: 太田好治) 画像 3/6
「COMPLEX 日本一心へようこそ。
大自然の前ではオレたちなんてちっぽけ
な人間だが、こうして集って力を束ねれば、
奇跡だって起こせると信じています。ともに
能登へエールを。ぶちかまそう!」と吉川。
客席からも多くのこぶしが上がった。
「PRETTY DOLL」では躍動感あふれる
歌と演奏によって客席が激しく揺れた。
「CRASH COMPLEXION」では変幻自在の
歌と演奏を展開。バンドの集中力あふれる
演奏も見事だった。メンバーは湊雅史(D)、
スティーヴエトウ(Per)、井上富雄(B)、
奥野真哉(Key)、岸利至(Programming)
の5人。吉川と布袋の信頼するミュージシャン達
が結集した。「路地裏のVENUS」では吉川が
フライングV、布袋がゼマティスを手にし、
ギターによる共演が実現した。吉川と布袋が
背中合わせでギターを弾いたり、向き合って
ギターの掛け合いを繰り広げたりすると、
観客も一緒に熱狂していた。二人にしか生む
ことのできない火花は実にスリリングだ。
吉川と布袋のコーラスもこれぞCOMPLEXと
言いたくなる独特の味わいがある。
「ハロー、東京ドーム!今日は能登半島を始め
とする被災地への復興支援に賛同してくれた約
5万人の同志達が、全国から集まってくれました。
日本一心。今日は心も体も一つになって、一心
同体となって、被災地にエールを送りましょう」
との布袋からのMCもあった。「LOVE CHARADE」
では爽快感あふれる歌声とブライトな響きのある
ギターによって、会場内に明るいエネルギーが
満ちていった。途中で布袋が両手を頭の上に上
げてハートマークを作ると、観客も一緒にハート
マークを作っている。吉川もハートマークを作り
ながら、笑みを浮かべている。観客がともに歌い、
ハートマークを作っている。夏の恋がモチーフと
なった歌だが、会場内が大きな愛を共有している
と感じた。この光景には一心という表現が
ふさわしいだろう。
さらに「2人のAnother Twilight」「MODERN VISION」
「DRAGON CRIME」など、バラエティーに富んだ
ナンバーが披露された。セットリストは前回、前々回
の東京ドーム公演とほぼ共通している。オリジナル
アルバムが2枚ということもあり、これがCOMPLEXに
とっての最適解、最強のセットリストなのだろう。
ただし、曲目は共通していても、過去の公演の再現
ライブではない。過去を更新するステージだと感じた
のは、今の彼らが最新の思いを込めて、演奏している
からだ。タフさと懐の深さが魅力的な「MODERN VISION」、
深い陰影を備えた「BLUE」、布袋がWネックギターを
披露した「CRY FOR LOVE」など、
彼らの表現力の豊かさを堪能した。
COMPLEX 「日本一心」(撮影: 横井明彦) 画像 5/6
今回のセットリストに新たに加わったインスト
曲「HALF MOON」では、布袋が叙情あふれる
ギターを披露した。続いて、バンドによる
「ROMANTICA」のインスト演奏が入る構成。
後半は「PROPAGANDA」「IMAGINE HEROES」
など、たたみかける展開となった。「GOOD SAVAGE」
でも吉川と布袋の白熱のギターバトルが実現。
「恋をとめないで」の印象的なギターリフが
鳴り響いた瞬間に、会場内の温度が上がった
かのようだった。5万人によるシンガロングは
壮観だ。吉川が歌詞の一部を変えて、
「東京ドームの夜だぜ」と歌うと、待っていま
したといわんばかりの大歓声と拍手。本編の
最後は「MAJESTIC BABY」だ。<お前と一緒なら>
というフレーズでは、コール&レスポンスが起こり、
「お前と一緒にエールを!」と吉川がシャウトすると、
賛同の意を表明する雄叫びが起こった。
エンディングでは、吉川がシンバルキックを披露。
何度か失敗した後に、鮮やかに決めると、
布袋が両手を挙げてガッツポーズ。
アンコール1曲目には「1990」が演奏された。
LEDモニターに「1990」の数字が映し出されて
の始まり。COMPLEXが活動していた1989年から
1990年にかけてはベルリンの壁崩壊、天安門事件、
東西ドイツ統一など、世界的に激動の時代だった。
彼らは当時の世界情勢を踏まえて楽曲を制作していた。
平和への祈りは2024年の今も有効だろう。
2024年の「1990」は愛と勇気と希望の歌と
形容したくなった。ヒューマンな歌声とギターが
真っ直ぐ届いてきたからだ。観客も「ラララ」で
参加して、温かな空間が出現し、曲の終わりには
「2024」の数字が映し出された。「RAMBLING MAN」
でのファイティングスピリッツあふれる演奏からは、
彼らが今も挑み続けていることが伝わってきた。
アンコール時のMCでは、布袋のこんな発言も
あった。「あの頃20代だった吉川は58歳、オレは
62歳だぜ。でも年を重ねても、心はどこまでも
走れるんだぜってことをみんなに伝えられたん
じゃないかと思います」
COMPLEX 「日本一心」(撮影: 太田好治) 画像 6/6
Wアンコールではセットリストに新たに加わった
「CLOCKWORK RUNNERS」が演奏された。時計の
刻むリズムに導かれて、ダイナミックなバンド
サウンドが展開されていく。タイトなカッティングから
ストレンジなテイストのリフまで、布袋のギタープレイ
は変幻自在だ。吉川の歌声は困難な時代を生きる
すべての人へのエールのようにも響いてきた。
最後の曲は「AFTER THE RAIN 」。ここで歌われて
いる<雨上がりの街>とは希望の象徴でもあるだろう。
観客がスマホのライトを灯して揺らす光景は、
まるで夜空にまたたく星の輝きのようだった。
アンコールも含めて、24曲、2時間半。会場内には
濃密な一体感が漂っていた。「日本一心」を掲げた
公演でもあり、一体感ではなく一心感と表現した
くなった。感情や意志までもが一つになっていると
感じたからだ。この東京ドーム公演では、吉川と
布袋だけが融合したのではないだろう。二人と
バンドとスタッフと観客の思いを結集する2日間に
なったのではないだろうか。
2日目の終演後に吉川からこんな言葉もあった。
「みなさんに賛同していただいたものは、適切に
使っていただけるところをしっかり確かめて、
我々が届けにまいりますので、安心してください。
ちょっと時間はかかりますが、しっかりやります」
「日本一心」の旗のもとに集結した人々のエールの
思いは、さまざまな形となって被災地に届く
ことになるだろう。
文:長谷川誠