L’Arc~en~Cielが約2年振りに開催、2月にスタートさせた全国ツアー『ARENA TOUR 2024 UNDERGROUND』を完走した。これまでライヴで披露する機会が少なかった楽曲たちに光を当てるコンセプトのもと、レア曲尽くしのセットリストで臨む冒険的かつ実験的なツアーだった。ファンクラブ限定の横浜アリーナ2Daysを残し、事実上のファイナルとして開催された4月6日、7日、さいたまスーパーアリーナでの一般公演の模様をレポートする。
メリーゴーラウンドを思わせる円形のセンターステージと、そこから伸びる4本の花道。LEDスクリーンを備えた天蓋と台座の間を紗幕が覆っている。開演前から雨音を含むアンビエントなSEが流れていて、次第に雨足が強くなると場内は暗転。入れ替わりに、無線制御のオフィシャルグッズL'ライトが観客の手元で色とりどりに点灯する。いよいよ開演である。
L’Arc~en~Ciel(C)Hideaki Imamoto 画像 2/19
雨夜に浮かび上がる月と、ピアノの暗鬱な調べ。聳え立つ古城に向かって羽ばたくカラスが咥えていた、種のような、光る楕円の物体をくちばしから落下。すると画面が切り替わり、地下室への階段を降りていく黒衣の4人をカメラが追う。フードを外しメンバーが一人一人大写しになると、yukihiro(Dr)が広げた掌からは砂が零れ、ken(Gt)の掌には風、tetsuya(Ba)は水、hyde(Vo)は火が出現。集まった4人は同時に手をかざし、それらを地面に向かって放つ。カラスがくわえていた種と、メンバーが持っていたエレメントとが合体して、何かが生まれるのだろうか? そんな予感と共に、扉が開き光に向かって歩いていく4人の後ろ姿が映し出され、場内では大歓声と拍手が沸き起こった。ツアーロゴが出現し、ピアノの第一音が鳴り響く。赤く照らされた紗幕越しに始まった1曲目は、1994年リリースのアルバム『Tierra』収録の「All Dead」。メンバーのシルエットが亡霊のように浮かび上がり、姿はまだ見えず焦らされる。スノードームにステージごと閉じ込められたかのように白い破片が宙を舞い散り、紗幕を活かした演出の美しさに目を瞠った。
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切り込むような鋭さで2曲目の「EXISTENCE」を放つと、紗幕が振り落とされ4人の姿が露わに。hydeは早速「Sing out!」とファンを煽り、一体感を求めていく。続けざまに「THE NEPENTHES」を投下、緑の光で場内は染め上げられた。ステージからはスモークとファイアボールが噴き上がり壮観な眺めである。hydeは大きく脚を広げた低い姿勢で猛々しく咆哮、かと思えば澄み渡ったロングトーンを聴かせ、変幻自在な歌声で陶酔させた。
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濃密なグルーヴ感で圧倒した序盤を経て、「砂時計」からはムードが変わった。天使の梯子を思わせる無数の白い光がステージを照らし、kenの繊細なギターカッティングがそこに漂う空気に色を付けていく。tetsuyaのベースが寄り添うように重なり、yukihiroの鳴らしたシンバルは光の粒を撒き散らすかのように煌めいていた。hydeは胸に手を当て一語一語を噛み締めるように歌唱。例えば<幸せを望む事がその悲劇を呼んでいる>など、歌詞には現代の時世を投影して聴くこともでき、その普遍性に唸らされた。深遠な世界観に既に惹き込まれていたが、次曲「a silent letter」が始まると、更に一段深い奈落が存在していることに気付かされた。青から白へのグラデーションで制御されたL'ライトは客席を星空のように色どり、更に俯瞰で見れば、すり鉢状の底で回転し始めた円形ステージは、あてどなく銀河系を浮遊する大きな宇宙船のようだった。ツアー初日には虚ろなメランコリックさに魅入られたこの曲は、公演ごとに印象が変化。この日の表現からは、静かな祈りのような純粋無垢さを感じた。終盤、歌と演奏の昂りとシンクロして赤い光が加わっていく照明演出が鮮烈で、最後に静寂が訪れるその時まで、すべてが完璧に美しかった。
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煽情的なピアノが響き、真っ赤に染められたステージで「Ophelia」を披露。hydeはサックスを演奏、kenは腰掛けて煙草をくゆらせながらクラシックギターを情熱的に弾いた。滑らかにベースを奏でながら、コーラスも担うtetsuya。yukihiroは変化していくリズムをコントロールし、正確に繰り出していく。「Taste of love」は選曲そのものの驚きに加え、柵状の床下からステージを這うhydeを追うアングル、yukihiroのキックする足元を捉えるアングルなどを導入した画期的なカメラワークでも沸かせた。狂おしいギターソロを掻き鳴らすken。ピンスポットを集中的に浴びてtetsuyaがベースソロを奏でた瞬間、会場がどよめいた。<愛している>の歌唱をファンに委ね、歌い終えたhydeの目元は、涙か汗なのか、潤んでいるように見えた。
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第一部が終わり、ブラウン管のテレビがLEDスクリーンに出現。1980年代のテクノポップ調BGMに乗せ、オープニング映像の古城を3Dスキャンしたような線画と、その廊下を羽ばたく鳥が投影され、幾多のキューブが組み合わさってメンバーのフィギュアを形作っていく。第二部の1曲目は「Voice」。アルバム『DUNE 10th Anniversary Edition』のジャケットアートワークが三次元化したような空と海の映像が映し出されるスクリーンをバックに、開放的で瑞々しいサウンドを鳴り響かせる。以降、ステージから四方へ伸びた花道へ、メンバーは随時歩み出てファンの近くでパフォーマンスしていく。髪を振り乱し身体を揺らしながら、kenは心地良さそうにギターを奏でていた。呼吸のピッタリと合ったキメを鳴らし、「Vivid Colors」へ突入。L'ライトと照明はひときわカラフルで、LEDスクリーンも大きな刷毛で絵の具をペイントするように色で埋め尽くされていく。「叫べ、さいたま!」とファンに呼び掛け、シンガロングを求めるhyde。tetsuyaは花道の突端でジャンプしながらターンを繰り返した。一音一音が光に満ち、メンバーもファンも笑顔。会場は多幸感に満ちていく。そこへ「flower」を放つと明るさは更に増していき、hydeとtetsuyaが向かい合ってパフォーマンスする場面に沸き立つ観客。続けて披露することで輝きが増幅していく、マジカルな3曲の連なりだった。
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ここで初めて「さいたま! L’Arc~en~Cielです」とhydeは挨拶、yukihiroが合の手を入れるようにキックを踏み鳴らした。「どうですか? センターステージ。皆近いね。全部見えるからね」とファンに語り掛けると、AIによる英語の同時通訳が字幕化。これはツアー初日にはなかった演出である。「今日も久しぶりの曲をたくさんやっております。マニアックな人たちが多いと思うので、ほぼ知ってる? 全部歌える? いい声してたね」などと話し掛け、その間ステージはゆっくりと回転していた。「いちばん声援が大きいところで止まるようになってます」というジョークで笑わせ、停止すると「まだまだ続きますが、『It’s the end』」とタイトルコールに繋げた。夕焼けを思わせる濃いオレンジ色の光の中、異国の大地を南へと向かう車だろうか、車窓からの風景を思わせる黄昏の映像と共に、小気味よく乾いたサウンドを鳴らしていく。
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エレクトロなSEに続き「shade of season」が始まると、ブラウン管テレビ状がLEDスクリーンに出現し、メンバーの姿とモノクロの月面映像がオーバーラップして投影され、レトロフューチャーな物憂い雰囲気が醸し出された。hydeは黒いレザーグローブをした手で口元を覆うなど、倒錯的な色気を漂わせながら、艶やかなヴェルヴェットヴォイスで歌唱。ストイックなyukihiroのドラミングは、品格ある端整な美しさで曲を支えていた。kenの掻き鳴らすアコースティックギターで「Blame」が始まると、黒と白を基調とした現代アート風イメージ映像に赤が差し色として加わる、ソリッドな印象のライヴ空間へ。曲の印象を決定付けるリフを緻密に刻み続けながら、伸びやかに歌うような心地良さも堪能させるtetsuyaのベースライン。強弱のメリハリ豊かなパフォーマンスで、4人の音の呼吸がピッタリと合っていなければ生まれないグルーヴ感が心地良かった。
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荘厳なSEが響き、始まったのは世にも美しいミディアムバラード「叙情詩」。両手でマイクスタンドを握り締め目を閉じて歌うhydeは、アーチ状のモチーフのフレームに収まり、神秘的な宗教画のように見える。音階を軽やかに高下するkenのアルペジオは、春に散る花弁や秋の落ち葉を脳裏にイメージさせた。曲の世界観に似つかわしい柔らかな白い光に包まれながら、4人は音を厚く重ねながらも決して濁ることのない、奇跡的なアンサンブルを織り成していく。陶酔の中で、第二部は締め括られた。
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余韻冷めやらぬうちに始まったのはTHE L’ArQuiz。 L’Arc~en~Cielにまつわる三択クイズを楽しむコーナーである。観客は起立し、正解だと思う色をL'ライトで意思表示、ハズれたら消して着席していく、というルール。勝ち残った観客がその都度LEDスクリーンに映し出されていくのだが、ライヴ参加者の年齢層が幅広いこと、また、掲げている国旗やボードなどから、世界各国のファンが詰め掛けていることも一目瞭然。温かな気持ちになるのだった。
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勝者たちが祝福された後、VTRがスタート。ひび割れた大地から芽が出て花が咲き、城の外壁や庭には緑が生い茂り、孤独なカラスは白いハトに変身、やがて仲間たちが増えていった。物悲しい旋律は明るいハーモニーへと変わり、青空には虹が架かる。一瞬暗くなった後、ライトが点くと「GOOD LUCK MY WAY」が始まり、ステージにはyukihiro、3本の花道の先にそれぞれhyde、ken、tetsuyaが立っており、大歓声が巻き起こった。tetsuyaは更にアリーナへ降りてファンの至近距離でパフォーマンス。弾けんばかりの楽しさ、喜びに満ちた第三部の幕開けだった。
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ステージが回転し始めて、火花の特効が炸裂する中で「Killing Me」を投下。スモークも床下から吹き上げ、壮観な眺めとなる。コーラスするkenにhydeが接近、やがてtetsuyaも近付いて、yukihiroの前で全員が集まるフォーメーションに。それを観た観客は、どんな特効に煽られるよりも盛り上がっていた。「自由への招待」へと雪崩れ込むと、まるで無邪気なバンドキッズのような生き生きとした演奏を繰り広げ、伸びやかに歌い終えたhydeは最後にダッシュ、yukihiroとアイコンタクトを取りジャンプダウンして音を止めた。
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「さいたまの皆さん、楽しんでますか? いいね、皆笑顔でね。かわいい」とhydeはファン見渡しながら語り掛けた。名古屋公演から少し空いた期間にhydeが韓国を訪れていた話題となり、何を食べたのかをkenが尋ねると、hydeは「何だっけ? タコが生きてるやつ」と返答。tetsuyaがここで「今日からAIに答えてもらえるようにヴァージョンアップしました」と発表、早速質問してみることに。kenの質問に対し、怒涛の早口で長文返答をし始め、暴走するAI。困惑するkenとAIとのやり取りは想定外の展開を見せ、会場は爆笑。カメラがyukihiroの笑顔を捉え、hydeは「涙出てきた(笑)」と衣装で目元を拭うほど。tetsuyaが「L’Arc~en~CielのコンサートのMCで、盛り上がるMCを教えてください」と質問すると、AIはやはり早口で長文ではあるものの、ところどころ的を射たアドバイスを回答。tetsuyaは「ライヴのMCでAIを使ったの、世界初じゃない? ツアー中もヴァージョンアップしてるでしょ?」と胸を張った。生きたタコの料理名はサンナッチだと判明し、hydeが「サンナッチ、ということでいいですか?」と尋ね、kenが頭上で丸のジェスチャーをすると大爆笑のAIコーナーは終了。「まだ続きますけど、『Bye Bye』」(hyde)とタイトルコールに繋げた。「Bye Bye」でメンバーの姿がアニメ化されモニターに映し出されたのも新演出。曲調こそ明るいものの、別れが近付くライヴ終盤の心情とシンクロする切ない歌詞が、じんわりと沁み込んでくる。続いて届けたのは、コロナ禍の真っ只中にリリースされたシングル「ミライ」。ミラーボールが輝くステージで、yukihiroの背後の台に立ち、歌唱するhyde。<今虹がかかり>のフレーズと同時に、虹色のレーザーが会場に広がっていき、眩い絶景が立ち現れた。弓を引いて矢を放つアクションでhydeが歌い終えると、合唱の英詞がLEDスクリーンに映し出されファンは歌唱、メンバーはその声に耳を傾ける。L’Arc~en~Cielにとっての声出し解禁ライヴは本ツアーの初日公演だった。結成30周年をファンと共に祝いたい、という想いで生み出されたこの曲が、コロナ禍を経て、ようやく合唱にまで漕ぎつけた。会場に響く清らかな歌声は、心を震わせてやまなかった。
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「Link」が始まるとすぐ銀テープが噴出、アリーナに転がった巨大バルーンに観客が手を伸ばし、高揚感溢れるポップナンバーにぴったりな楽しさが視覚的、体感的にももたらされていく。ライヴが終わりゆく寂しさを忘れようとするかのように、ジャンプやターンを繰り返し盛り上がる会場。バルーンはやがて弾け、中から小さな色とりどりの風船が溢れ出していった。「次で最後の曲になりました」とhydeが告げると、「え~!」と惜しむ声が響いた。「楽しかったね、久しぶりの曲はどうだったでしょうか?」と問い掛けると大きな拍手が返ってくる。客席の様子を評し、「星空みたいに綺麗に見えてね。いつも励ましてもらってるなあって。感激しました」とコメント。UNDERGROUNDというコンセプトで掘り起こした初期曲は、「20歳ぐらいの時につくった曲とか、今演奏すると感慨深い」と語り、「あの時はこういう曲をつくって……その時の(音楽)シーンもあるじゃない? そこにぶち込んで、暴れていたんだなって。今この歳になって、新たな気持ちで演奏したりすると、また別の味わいを感じながら演奏させていただきました」と、率直に想いを述べていく。「皆が聴きたいと思っている曲をやってみたけど、楽しくてね」とも。このタイミングでkenが客席に向かい、大きく両手を振っていたのも印象的だった。「MY HEART DRAWS A DREAM」を最後に届け、ファンの合唱に耳を澄ます場面は、「ミライ」同様、それが叶わなかった日々が思い起こされた。悲喜交々の感情を呼び起こされた、初日公演。単にコアファンに向けてレア曲を並べた、というセットリストでは無いことは明らかだった。
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Day1より1時間早い16時開演のDay2。ピアノの一音目と赤く染められた紗幕の演出はDay1同様だが、始まったのは「All Dead」ではなく「THE BLACK ROSE」という、うれしい裏切り。牙を剥くようなアグレッシヴな幕開け方は、両日共通している。「EXISTENCE」の<掴み取れ自由を!>で跪くhyde。kenが繰り返すアウトロのアルペジオの不穏さな響きにゾクゾクとし、鳥肌が立った。この日の「THE NEPENTHES」の歌唱は破裂音を荒っぽく吐き捨てるようなワイルドさがあり、yukihiroのドラミングもよりグルーヴィーでドラマティックに感じられた。「砂時計」は深く艶のある歌声に、tetsuyaのベースラインがそっと寄り添うように絡んでいく。同じ曲でも日によって印象が異なり、特に「a silent letter」は解釈が丸ごと変わってしまう不思議な曲だった。この日は子守歌のような包容力と穏やかさを序盤に感じ、終盤に向かうにつれ、濃密な死の気配に包まれていった。もちろん受け手の数だけ感じ方が存在するのだが、それもL’Arc~en~Cielの楽曲には様々な解釈を可能とする多面性があるから。加えて、メンバーの表現力の深化が奥行きを与え、解釈の幅を一層押し広げているのだろう。「Ophelia」は円熟した色気が匂い立ち、hydeのロングトーンは声を張り上げることが一切なく、それがむしろ抑えた激情を浮き彫りにしていた。遠くから聴こえてくる地響きのようなSEに続き、tetsuyaがベースのリフを弾く手元から煽る大胆なカメラアングルで始まる「Taste of love」。ギターソロを掻き鳴らすkenは、音に深く没入しているように見える。レア曲尽くしの第一部は興奮のうちに終わり、強烈な残像を刻んだ。
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第二部の「Voice」のメロディーと展開の美しさに陶酔していると、kenとアイコンタクトして顔をほころばせるyukihiroがLEDスクリーンに写し出され、観客は大歓声。こうした小さな出来事からも、メンバーが楽しみながらプレイしていることを窺い知ることができた。「Vivid Colors」では<目を閉じて>と歌いながら両目を手で覆って跪いたhyde。tetsuyaは最後、プレイを終えると高くベースを掲げた。「flower」はhydeとtetsuyaが身を寄せ合うような距離感で始まり、やがて二人はそれぞれに花道やステージ外周に歩み出て、ファンとコミュニケーションした。MCでは「会いたかった? かわいい声聴かせてくれよ!」とhydeが叫ぶと、「会いたかった!」と大きな声で答えが返ってきた。久しぶりの披露となる曲たちを「次いつやるか分かんないからね、しっかり目に焼き付けて帰ってください」と語り掛けたhyde。「It’s the end」の後は、Day1の「shade of season」に代わり、このツアーで28年振りに披露しているレア曲中のレア曲「Cureless」を放ち、シャウト混じりのヴォーカリゼイションと激情迸るプレイでファンを熱狂させた。「Blame」の歌唱も演奏も、隅々まで意識が張り巡らされていると同時に、伸びやかでヴィヴィッド。いつまでもこのバンドアンサンブルを聴き続けていたい、と思わず願った。歌い始める前に大きく息を吸う音すらドラマティックだった「叙情詩」。kenの刻むギターリフはグルーヴを生み出し、対比的にtetsuyaのベースはヴェールのようにサウンド全体を柔らかく覆っていた。オレンジ系のライトが衣装を照らすことで深い陰影を生み、ステージ上のメンバーを絵画のように美しく描き出しているのだった。
L’Arc~en~Ciel(C)Takayuki Okada 画像 17/19
THE L’ArQuizコーナー、VTRを経て、第三部が「GOOD LUCK MY WAY」で幕開けると、「Killing Me」では花道の先で演奏していたkenをhydeが羽交い絞め。そこへ別の花道から急いで走って来たtetsuyaが合流、貴重な3ショットに大歓声が起こった。kenはメインステージへと駆け戻り、ギターソロを完遂。その間hydeとtetsuyaは花道で向き合ってパフォーマンスし続けていた。「自由への招待」に代わりDay2は「NEXUS 4」を披露。突き抜けた明るい曲調が清々しい空気感を広げ、hydeはドローンカメラに向かってダッシュ。臨場感のある映像がモニターに映し出されていく。この曲でもhydeはギターソロでkenに接近。ファンにとって掛けがえのない尊い場面がステージのあちこちで生まれていた。
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「ライヴハウスより近いね」とセンターステージのファンとの距離感を語ったhydeは、花道を歩きながら「うれしい? 良かったねえ」「(『Taste of love』で)<愛してる>って言ったの? かわいいね。おじさんも言ってくれた? よしよし」などと、幼い子どもをあやすような口調で、幅広い年齢層のファンに愛情たっぷりに語り掛けた。「今日、いい感じですよ。グーッと集中してね」とライヴの手応えを語り、浴びせられる歓声を聴き「そんなにラルク好きですか?」と質問。「好き!」という無数の声が響き渡った。
LEDスクリーンに投影される映像によって、まさにメリーゴーラウンドと化したステージで「Bye Bye」を披露。「ミライ」では、メンバーはイヤモニを外したり手を耳に当てたりしてファンの合唱を聴き、「Link」へ。最後のMCでは、「久しぶりの曲たくさんやったと思うんですけど、どうだったでしょうか?」というhydeの問い掛けに、「最高!」などの掛け声や拍手が響き、kenもステージでそっと拍手を送っていた。hydeは、20歳や21歳でつくった曲を「今再現するのは、最初は照れ臭さもあったんですけど、面白いね。当時考えていた気持ちを再認識する、というか」と感慨深そうに語り、「こんなこと思ってたんだなとか思いながら、実は歌ってます」と心の内を明かした。「当時の景色とか、思い浮かべながら歌ったりしていました。皆もきっと……いろんなお客さんがいらっしゃる。記憶の中にはL’Arc~en~Cielの音楽があって、あの曲を聴いたらあの頃を思い出すんだよなとかあると思います」とコメント、ファンの人生に想いを馳せた。「きっとそうやって皆の血の中に入っているんだろうなと思いながら今日は歌いました」と語ると大きな拍手が起きた。
「声を出せない時期もありましたけど、お互いの逢いたいという気持ちが叶って、良かったなと思います。今日はありがとうございました」と真っ直ぐに感謝を述べると、混じり気のない澄み渡ったkenのギターの音色を皮切りに、「MY HEART DRAWS A DREAM」が始まっていく。慈愛を湛えた温かな表情で歌うhyde。合唱でファンと想いを通い合わせ、最後の力を出し切るようにエモーショナルにプレイし、アイコンタクトを交わして音を止めるメンバーたち。モニターが映し出したその表情は、柔らかで穏やかなものだった。ステージを降りる際、kenもyukihiroもファンに向かって手を振って挨拶。hydeは投げキッスを放ち、バレエダンサーのように優雅なお辞儀をして去っていった。tetsuyaは「ありがとう! 楽しかった?」とファンに問い掛けながら全花道を巡り、「ありがとう! 声出せるっていいね」とコメント。BGMが一瞬止まり、ピンスポットを全身に浴びると「まったね~!」と挨拶してステージを後にした。
L’Arc~en~Ciel(C)Takayuki Okada 画像 19/19
長年にわたり眠っていた初期曲や、近年の作品でもライヴで披露する機会が少なかった曲たちにスポットを当てた、前例のないコア曲揃いのセットリスト。全てが名曲であり、2024年の今を生きるメンバーの身体を通して歌い奏でられることで、イメージは瑞々しく刷新されたが、もちろん元来の魅力を損なうこともなかった。hyde、ken、tetsuya、yukihiroが持つ固有の魅力を4つのエレメントで表し、それらが合わさって生まれるL’Arc~en~Cielの音楽が希望の光となり、傷付いてひび割れた人々の心を癒していく、というイメージを一連の映像は象徴していた。素晴らしいのは、難解な説明もなく、芸術性とエンターテインメント性を兼備した構成と演出によって、それをすんなりと体感できるライヴとなっていたことである。開幕からファイナルまで、公演ごとに絶え間ないヴァージョンアップが重ねられていたのはプロフェッショナル集団だからこそ。シンプルに、メンバーがL’Arc~en~Cielの音楽を、ライヴで歌い奏でることを楽しんでいるように見えたのもうれしく思われた。気付けば結成35周年もすぐそこに迫っている。L’Arc~en~Cielの未来のために、意義深い挑戦と実験を成功させたツアーだった。
Text:大前多恵