真の色気とは、ある種の狂気をともなっているものなのだ。そして、それは振りまくものではなく、漂ってくるものでもある。匂い立つ、と言い換えてもいいだろう。その、どことなく危うき香りに人は惹かれてしまう。
つまりは、エロスとタナトス(生への欲望と死への衝動)を刺激して本能を呼び覚ましてくれるような存在を、人の世は常に求めている、ということ。
……と、ちょっとスカした書き出しになってしまったけれども、要するに本当に色っぽい人、特に男の場合は単に見た目がいいだけじゃなくて、生きざまのようなものが反映されるんじゃないかと思われる。結果、酸いも甘いも噛み分けながらも、少年の心を持つ大人の男に、おのずと女子たちは魅了されるっていうわけだ。
最近だと、俳優の井浦新がその筆頭と言えるだろう。一応、説明しておくと、石原さとみ主演のTBS系連続ドラマ「アンナチュラル」で、法医解剖医・中堂系を演じて、劇中でも異彩かつ存在感を放っている。元々、ファッションやカルチャーに明るい層からの支持率は高かったが、中堂役を入口に井浦の大人の色気に目ざめた10〜20代女子が、爆発的に急増中。金曜夜の「アンナチュラル」オンエア時に、SNS上が〝中堂先生祭り〟化するのが、今クールではもはや恒例になった。
その熱狂が最初にピークに達したのが、〝着崩したスーツ(実は喪服)姿〟で法廷に出廷した第3話(1月26日オンエア)だった。
そもそも、女子は男のスーツ姿が好物だが、シックな黒い上下をまとい、シャツの首元を少し開けて、ゆるめた黒いネクタイを下げた出で立ちに、「喰らった」という声が続出。
しかも、人格破綻者で口の悪いキャラながら、ガンガン正論を吐いて石原さとみ演じる三澄ミコトのピンチを救うという、〝白馬の王子さま〟的な役割を果たし、観ていた者たちのハートをギュッと鷲づかみにしてしまった。
……で、最初の話に戻るのだが、この一連のシーンでの井浦が垣間見せたのが、どことなく危うげで狂気の一端を感じさせる表情だった。彼のパーツでとりわけ印象的なのが、ほかならぬ「目」だ。その瞳に宿る鈍い光は、いったいどんな人生を送ってきたのかと、相対する者に深読みをさせてしまう魅力を持っている。
これは役作りだけでは表現できない、井浦自身の生きざまが投影されているがゆえの魔力、と言えるかもしれない。奇しくも、死者を弔う喪服姿でありながら、現世に生きる者を助けるという──エロスとタナトスを満たす行為をなしたことも興味深い。
まぁ、もっともらしいことはともかく、ゾクゾクとさせられるような眼差しと、長身で均整のとれたスタイル、なおかつ知性と品性も備えた大人の男──井浦新は、遅かれ早かれ〝見つかる〟運命にあったのだ、と。
そう力説して、次回へ繋ぐことにしよう。
(文・平田真人)