SNS総フォロワー数300万人を擁する、縦型ショートドラマクリエイター集団「ごっこ倶楽部」のドラマ主題歌がいま、バズっている。歌うのは、京都発のガールズバンド、おとなりアイニー。現在、TikTok総再生数1000万回だという楽曲『君の春にしておくれよ』は、美しくエモーショナルなメロディラインと等身大のせつない歌詞に胸を打たれた多くのユーザーが、同曲を使用しているのだ。「私たちの曲がこんなふうに広がるなんて」と驚くばかりのボーカル・はるさんに、ごっこ倶楽部とのコラボや、楽曲について、そして、一度はメンバー全員が脱退してしまったという紆余曲折のバンドヒストリーを聞いた。
総再生数1000万回のラブソング
ーー4月30日配信の楽曲『君の春にしておくれよ』が、5月2日投稿ごっこ倶楽部ドラマ『またこの本を読み返せたら…』の主題歌に使用されると、TikTok総再生数1000万回を超えてバズっています。楽曲使用動画も3000本を超えていますね。
おとなりアイニー はる(以下、はる) 動画を見ておとなりアイニーを知ってくださり、「声がいい」というコメントを見て単純にうれしく思うし、「1000万回」とか「3000本」という数字を目の当たりにすると、自分たちだけでやっていたのとはちがう広がり方を実感して、考えられない数字だし、とても驚いています。よくわからない数字だなあと思います(笑)。
ーーおとなりアイニーさんの公式にも飛んでくる人がいますか?
はる はい。少しずつですが、弾き語りの動画にコメントをくれるようになったり。ごっこ倶楽部のドラマに出演した役者さんからの反応もあって、うれしいです。
※画像はごっこ倶楽部TikTokより 画像 3/6ーーそれまで、TikTokで広がるほかのミュージシャンの動画を見てどう思っていましたか?
はる 友達のバンドがTikTokで再生回数を増やしていたのを見ていました。友達も私たちと同じライブバンドなんですが、ライブハウスでどれだけかっこいいライブができるかという世界にいて、熱いライブを切り抜いた動画や、キャッチーな歌詞やメロディを切り抜いた動画が再生回数を増やしていて「ステキだな」と思っていました。
今回わたしたちにもその機会がきて「チャンスが来た!」という感覚もあるし、素直に「やったー!」と思います。
ーーそもそも、どんなきっかけでごっこ倶楽部の主題歌に抜擢されたのでしょう。
はる 『ARTISTS LEAGUE Grand-Prix 2023』に出場して、セミファイナルまで進出しました。その副賞がごっこ倶楽部さんのドラマのタイアップで、そこで選んでいただきました。それで、まずは台本をいただき「春」「恋」というテーマがあるということで、私たちは「春」に着目して、青春感マシマシな曲を作りました。
書き下ろしは初めてで、誰かと共同で作曲するのも初めてで、ギターとベースとドラムの3ピースバンドなのでピアノやストリングスを使った曲も初めてで、イメージを伝えつつ多くの方と一緒に作りました。
ーーはじめてづくしだったのですね。
はる そうなんです。楽しかったし「こんなこともできるんや!」という発見もあり、作りたい曲のイメージが広がった期間でしたね。
2019年に結成するも、1年たらずで全員脱退
ーードラマのバックに流れる動画を見たとき、感動したでしょうね。
はる はい! ドラマタイアップも初めてだし「自分の声が流れている!」というところから始まって。いい反響をいただいてうれしいし、安心しました。自分たちの作品が目に見える形で広がっている感じにもわくわくしました。
いままでは、ライブの動員やMVの再生回数が目に見える形でしたが、今回の広がり方はほんとうに「新しい」です。
ーー結成は2019年なんですよね。
はる はい、当時は4P編成でしたが、1年たらずでメンバーが全員脱退して。そこからメンバーを集め直して、活動を再開しました。
ーー全員が脱退! なにがあったんでしょうか……?
はる もともと大学の軽音楽部に入っていて、そこでバンドを組めたらよかったんですが、当時在籍した先輩や後輩にオリジナルバンドをする人がいなくて、その場合、バンドってどないすんねん? となって、震えながら家の近所のライブハウスに行って「バンドの仕方を教えてください!」と言って、「メンバーはこうやって探したらいいんだよ」とライブハウスの人に教えてもらうところから始まりました。21歳のときですね。
ーーなんて素直なんでしょう。
はる それで、バンドメンバーを探すサイトで呼びかけたり、そのライブハウスつながりで縁ができた人もいたり。それで3人のメンバーが集まり、初ライブの3日後のことでした。その日はスタジオ練習する日で、リードギターの子が泣きながらスタジオにやってきたんです。で、「もう辞めたい!」と言うので「えっ!」と思って。
ーー急展開ですね……。
はる 友達だし、そんなにしんどい思いをして続けてほしくないし、「ごめんね……!」となり、そこから3Pになりました。で、2,3回活動したあと、ドラムの方が「結婚するから働く」ということで脱退しまして。彼はいまでも応援してくれています。そうしたらベースの方も「オレ、おとなりアイニーに向いていないかも」と言って。「どういうこと!?」となりまして。
ーー立て続けにみなさんが辞められたのですか。
はる そうなんです。それでひとりになり、弾き語り動画をアップして「バンドをしたいから助けてー!」と言ったりしていました。
「一緒にバンドがしたい」「覚悟を決めよう!」
ーーシンガーソングライターではなく、あくまでバンドがやりたかったんですね。
はる はい! 私が音楽をしたいと思ったのも、「曲を作りたい」「歌を歌いたい」ではなく、漠然と「バンドがしたい」だったんです。音楽をするならバンドがしたくて、バンド以外の活動が頭にありませんでした。
ーーいまのメンバーはドラムの猪瓦里美さんで、4月28日までベースのみきてーさんが在籍していました。
はる 猪瓦は大学の後輩なんです。
ーーそうだったんですか! 当時は一緒にバンドを組んでいなかったんですよね。
はる はい、当時はオリジナルのバンドに興味がなかったみたいで、でも「もしバンドをするなら一緒にやりたい」という話は、ずっと軽くしていて。よくライブも一緒に行っていたんです。それで、メンバーが脱退したタイミングで猪瓦のほうから連絡をくれて、「はるさん、バンドしたいかも」と。「じゃあ、覚悟を決めろ」と言ったら「覚悟、決めた!」と連絡をくれたんです。2020年6月でした。
ーーステキなやりとりですね! 覚悟、というのはどういうことですか?
はる 猪瓦は「バンドをするなら、ちゃんとしたい」という男気のあるタイプで。親にも「ちゃんと言う!」と話してくれたみたいで。年下なのにかっこいいと思います。
ーーみきてーさんはどんな経緯でしたか?
はる みきてーは大学の同期で、同じタイミングで軽音楽部に入ったんです。
ーーみきてーさんも!
はる それで、私がバンドを始めたタイミングで喧嘩をしてしまいまして。めっちゃ仲が良かったんですが、なにかのタイミングでみきてーが軽音楽部を辞めて、連絡を取らなくなってしまって。その後、4Pバンドメンバーが全員脱退する2か月前くらいに、やっと連絡を取り始めたんです。そのときにバンドを始めたことを報告すると「知っている」と。「私もはるとバンドしたかった」と言ってくれて。
ーーおお!
はる 「また機会があったら一緒にやろう」と話しました。そして脱退後、みきてーから「バンドをするならはるとや、と決めていた。だから一緒にやろう」と連絡をくれたんです。「ありがとうな」となって、3Pになりました。
初のラブソングにギリギリまで悩んだ
ーー最終的に、軽音楽部のメンバーが再集結したんですね。ふたりとやることになったタイミングはコロナ禍だったと思います。どんな活動をしていましたか?
はる 3人での初ライブは、配信ライブでした。お客さんゼロで、カメラの前でやって。それから月3本くらい、京都のライブハウスで配信ライブをやらせてもらい、そこから緩和するにつれて大阪や東京でもやるようになり、ライブ本数も年間100本とかに増えていきました。「修行や」と思ってやっていましたね。
ーー年間100本ライブをやって、お客さんが増える実感も目に見えてありそうですね。
はる ありましたね。とはいえ、バンドを始めたものの自分たちの広げ方もぜんぜんわかっていなくて、SNSよりも、一生懸命曲を作ってライブをするほうが、わかりやすく目の前のお客さんに届くのではないかと思っていました。曲作りは好きですし、歌詞を常に書き溜めるのが趣味みたいなところもありますしね。
ーー歌詞はどんなときに思い浮かびますか?
はる 「さあ、曲を作るぞ!」というときもあるし、友達のかっこいいライブを見たあとや、すごく楽しかった日の帰り道とか、自分の想像ではなく実体験が根底にあります。いまの自分の気持や、顔も名前もわかる大事な友達、近い人、そういう人たちに対してずっと曲を作っています。自分の気持ちが動いたときや、「こういう言葉をかけたいけど、面と向かって言うのは恥ずかしいから歌おう」というときに作ります。
ーーメンバーに対しての曲もありそうですね。
はる いちばん多いですね。いちばん近くにいる人たちなので。
ーー今回の『君の春にしておくれよ』の歌詞はいかがですか?
はる 題材が決まっているところからの曲作りが初めてだったし、なにより、いつもは恋愛の曲が書けなくて。言葉が出てこないんです。今回は「青春と恋」で、爽やかな恋愛観を書きたいと思いました。最初は堅苦しい言葉しか出てくなくて、ピンとくる言葉が出てこなくて、結構悩んで、レコーディングの前日までずっと歌詞を考えていました。みなさんもギリギリまで待ってくれて、最終的にはいいものが出来上がりました。
ーーお気に入りの歌詞はありますか?
はる 冒頭がいちばん最初に浮かびましたが、その辺りですね。
言えないでいる 君に見とれたことも
花はまだ咲いていないなら際限ない
が、いちばん最初に作った部分で、この歌詞を元に曲を作っていこうと思いました。
『今日好き』メンバーが「この曲好き!」
はる それに、曲のタイトルになっている「君の春にしておくれよ」は、この曲を作るきっかけになった言葉でもあるし、この言葉は大事にしていきたいなと思いました。作っていて楽しかったです。
ーーごっこ倶楽部さんの反応はいかがでしたか?
はる 「わーー!」となってくださって、一安心しましたね。初めて作ったラブソングを「よかったよ!」と言ってくださったのでほんとうに安心しました。ほかのかかわってくださった人にも感謝しかないですし、一緒に作ったプロの方は、ただただ「すげー!」と思ったり。いろんな刺激を受けました。MVに出演してくださったのは『今日、好きになりました。』(ABEMA)に出演していた方もいらっしゃって、その方たちに対しても同じ気持ちです。
ーーMVは6月14日に配信されましたね。
はる 演奏シーンとキャストさんたちによるドラマシーンがかけあわさったMVで、いままで私たち以外が出ているMVを作った経験がなくて、とても新鮮でした。みなさん画面の中で見たことがある方たちで、演技をしてくださって、かっこよかったですね。楽曲について「この曲好き! マジでかっこいい」と言っていただき、「あなたたちのほうがステキだよー!」みたいに思ったりして。仕上がりは1本の映画を観ているようでしたね。
ーーこの曲がさらに広がっていく予感がしますね。
はる 今回の広がり方は、私たちだけではできないことを多くの人と一緒にやることで「こういこともできちゃうんじゃないか」「これも実現できるのでは」と夢を見せてもらった気分でした。夢だけではなく、現実的に自分たちが広がる方法を知ることができて、いい経験をしましたね。
ーー結成時、おとなりアイニーはどんな目標を掲げていましたか?
はる 漠然と「売れたい!」「Mステに出たい!」「大阪城ホールで演りたい!」とかでしたが、そこから「売れたいって、どういうこと?」と自問自答が始まり、いまは広がっていくことの大切さを実感しています。同時に、ライブハウスでたくさんの人が「好き」と言ってくれることは、ほんとうに幸せなことで。やっぱり目標は、「おとなりアイニーのことが好きな人たちがあふれたライブハウスで、歌いたい」ですね。
ーー実現しそうですか?
はる ぜんぜんあります! いま応援してくださっている方は、親バカフィルターが入っていると思いますが、優しい人ばかりなんです。曲も、私たちメンバーのことも「好き」と言ってくださる方がたくさんいらっしゃって、そういう人たちもひっくるめて、全員を幸せにしたいな、と思います。
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